ライザップ、 M&Aも「結果にコミット」
美容・健康を軸に周辺領域へ拡大
財務の健全性は維持
業績推移を見ると、リーマンショック時に売り上げが落ち込んでいるが、その後は順調に増加している。新中期計画「COMMIT 2020」によると、2017年3月期に売上高1,000億円、2021年3月期までに売上高3,000億円を目標としている。
セグメント別の売上推移を確認すると、やはり美容・健康事業が牽引していることが分かる。食品関連事業は、2007年に(株)弘乳舎を子会社化し事業を営んできたが、今後さらに美容・健康事業を軸に業容を拡大するにあたりグループ内シナジーが希薄であるという理由で、2013年に弘乳舎の全株式を売却することで撤退となった。
食品関連事業撤退の代わりに、住関連ライフスタイル事業及びエンターテイメント事業が美容・健康事業との協業を進めている。住関連ライフスタイル事業は、高機能やデザイン性に富む商品に満ちたライフスタイルを提供するという点でRIZAPにおける重要な事業領域の一つとして位置付けている。
2013年9月にイデアインターナショナルを子会社化し、2014年2月にはイデアインターナショナルが同じく子会社の日本リレント化粧品を吸収合併するなど業容の拡大を図っている。また、2016年2月に注文住宅やリフォームを手掛けるタツミプランニング、2016年5月にインテリア小物雑貨及び生活雑貨の販売を手掛けるパスポートを子会社化したことで、更なる商材の拡大を図っている。
エンターテイメント事業は2014年1月にゲオディノス(2014年1月にSDエンターテイメントに商号変更)を子会社化したことで開始し、美容・健康事業との協業を進めている。
RIZAPの自己資本比率は最近では20%前後を推移している。2006年にM&Aを本格的な開始にともない有利子負債が大幅に増加したことで自己資本比率は低下したが、毎期の利益の積み上げにより自己資本比率は上昇している。しかし2013年3月期以降、総資産の急激な増加により自己資本比率は減少している。総資産の急激な増加は、売上の増加に伴う当座資産(簡便的に現預金+売上債権で算出)が大幅に増加していること、及びM&Aによる資産の増加が要因である。
2016年3月期に自己資本比率が大幅に増加しているが、これは2015年6月にドイツ銀行が新株予約権を総額26億円で行使したことで株主資本が増加したことが要因である(なお、新株予約権が行使されなかったと仮定した場合の2016年3月期の自己資本比率は19.22%で、2015年3月期に比べ微増している)。M&Aにより総資産が増加しているが利益の増加に伴い株主資本も増加しており、結果として財務健全性は維持されている。
2017年3月期では第1四半期において業績予想を上方修正している。「COMMIT2020」に掲げた「売上1000億円、営業利益100億円」を達成できれば、RIZAPの財務健全性はさらに安定したものとなるであろう。
一方で、積極的なM&Aに伴い、2016年6月末時点でのれんが54億円に膨らんでいる。RIZAPは2017年3月期から会計基準に国際会計基準(IFRS)を適用した。IFRSではのれんの定期償却が不要となり、損益計算書上は営業利益のプラス要因になる。しかし、買収先の収益が悪化した場合、のれんの減損処理を迫られるリスクもある点には注意したほうがよいだろう。
高い利益成長も足元は上値重く
業績拡大に伴い、RIZAPグループの株価は大幅に上昇している。11月2日時点の株価は863円と3年前の約8倍に跳ね上がった。2017年3月期の業績予想をベースに計算した予想PER(株価収益率)は約18倍。スポーツクラブ運営のセントラルスポーツ(約13倍)やルネサンス(約12倍)を大きく上回る。RIZAP事業の高いブランド力に基づく収益力や成長性が投資家に評価されているようだ。
もっとも足元では株価の上値は重くなっている。さらに上値を追うには、RIZAP事業が好調なうちにここ1~2年で買収した子会社の業績を成長軌道に乗せることが課題になりそうだ。
RIZAPグループの急激な成長は、多額の広告宣伝費の投入によるブランド力の増大とM&Aによるものであることは明らかである。創業者持株比率が依然高いこともあり資金調達の余地は大きいため、豊富な資金力を背景に今後もM&Aを活発に行っていくことも考えられる。
ただ、最近では資金の移動を伴わない業務提携も増えてきている。「RIZAP」ブランド力が高まったことで広告宣伝費の投入が抑えられていることと同様に、これまで買収した子会社を成長させることにも力点を置くことが重要となってくる。今後は、蒔いた種をいかに刈り取るかについても注目していきたい。
M&A Online編集部2016年11月10日