高額薬は「世界の恥」? 薬価制度、抜本見直しへ
国民皆保険揺るがす問題。引き下げ幅合意形成難しく
製薬業界、臨床試験の効率化を模索
製薬業界は経営予見性が損なわれ新薬開発が滞るとして、期中改定に猛反発している。だが「わが国の医薬品産業は他の製造業に比べて異常に高い収益率を享受している」(保団連)などと“もうけすぎ”を指摘する声が根強く、薬剤費削減の流れに歯止めがかかる気配は乏しい。
過去に類似薬がない新薬に関しては研究開発費を含む原価や流通経費などを考慮して薬価が決まるため、製薬企業が研究開発を効率化できれば結果として薬価低減につながる可能性がある。利害関係者の理解を得る意味でも、そうする意義は高まっていると言える。
日本製薬工業協会(製薬協)は臨床試験の効率化に向けた検討を進めてきた。その一つが「リスクベースドモニタリング(RBM)」の推進だ。
試験の進捗(しんちょく)を管理する際、全ての医療機関へ専門家が出向いて治療データを逐一確認するのは労力がかかる。RBMは試験で起こりうるリスクをできるだけ洗い出しておき、リスクが低いと考えられる医療機関に関してはITの活用などで確認作業を円滑化する思想だ。
医療機関へ支払う費用の見直しも模索する。「日本では1症例当たりいくらで費用が算出される。医療機関では3日で(患者が亡くなるなどして)中止しても試験を満了しても、同じ金額になることがほとんど」(高杉和弘製薬協臨床評価部会副部会長)。海外では出来高払いになっている事例があるという。
こうした取り組みを加速するには当局や医療機関との連携が欠かせない。多様な関係者が互いに歩み寄り、幅広い観点で医療費増大への対策を検討する姿勢が求められている。
「価値に応じた値付けを」
東京大学大学院薬学系研究科医薬政策学 特任准教授・五十嵐中(あたる)氏
適応拡大で薬の売り上げが伸びるのはオプジーボ以前にもあった話だが、さほど注目されてこなかった。(期中改定をはじめとする)いろいろなルールを後付けでつくられると困る、という製薬会社の意見は一理ある。
当局は(オプジーボの薬剤費のような)問題が生じてから慌てて価格を切り下げていくのではなく、初めから薬の価値に応じた値段をつける仕組みを考えないといけない。
従来の薬価算定方式は、(安全性の高さや薬が効く仕組みの新規性などが)ある程度優れていたら何%加算する、という考え方だ。だが、つけた価格が効き目に見合っているかという費用対効果の評価も必要だろう。
(文=斎藤弘和)
日刊工業新聞2016年11月3日「深層断面」