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ノーベル賞研究支えた20年、自前の研究者持たない“JST”という存在

「おもしろい研究」と「役に立つ研究」 双発を長期的な視点で支援
ノーベル賞研究支えた20年、自前の研究者持たない“JST”という存在

青色LED(JST提供)


理解と支持を


 こういった輝かしい最先端研究の支援の一方、JSTの浜口道成理事長は「これらと同じレベルで大切にしたいのは、身近に科学技術を生かす活動だ」と強調する。地域企業の課題を把握し、全国の大学のシーズと結びつける「マッチングプランナー」プログラムは、東日本大震災の復興支援で貢献。資源も限られる被災地において、79件の案件の事業化を導いた。このほか、外国要人の訪問が多い日本科学未来館の運営も担当だ。

 JSTは17年度から次の中期目標・中期計画期間が始まる。枠を絞る研究開発だけでなく、イノベーションが持続的に起こる環境整備などに策を練る。医学系出身の浜口理事長は、医師が患者にその時点で可能なことや限界を伝えるインフォームド・コンセント(十分な説明と同意)の意識を、社会と科学技術の在り方に重ねる。

 夢や可能性だけでなく費用や課題も示し、社会の理解と支持を得ることにより、初めてイノベーションは実現すると考えている。

浜口理事長インタビュー


 2015年に就任した浜口道成理事長は、JSTの次の20年を見据え、改革を進める。これまでの歩みと今後の展望を聞いた。 

 ―10月で創立20周年です。振り返ってみていかがですか。
 「質と量で高いレベルにあると実感する。米調査会社トムソン・ロイターが発表した、イノベーションの創出で経済成長や優秀な人材輩出に貢献した国際研究機関の中では、JSTは3位だった。競争力のある特許や論文などを生み出し、産業界と大学との共同研究といった産学連携などが評価された結果だと喜んでいる」

 ―被引用数で上位10%に入る「トップ10%論文」の減少など、日本を取り巻く状況をどう捉えますか。
 「この十数年、国内外で大きな環境の変化があり、日本の国際競争力はすさまじいほど落ちた。一方で海外に目を向けると、日本と同程度の研究予算と半分にすぎない研究者数のドイツは、高い研究レベルを維持する。与えられた予算の中で最も効果のある配分をすることが重要だ」

 ―今後の取り組みは。
 「このまま行くと日本は科学技術分野で厳しい状況に追い込まれる。限られた予算の中で、科学技術イノベーションの活力を上げ、経済的な状況を好転させるような機能をJSTで担いたい」

 「次の20年を見据えたJSTの改革として、独創的な研究開発に挑戦するネットワーク型研究所の確立など五つの柱を掲げた『浜口プラン』を4月に公表した。イノベーションは融合研究から生まれる。出口を意識し、分野の融合や連携の取り組みを進めたい」
(文=山本佳世子、冨井哲雄)
日刊工業新聞2016年10月31日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
 2016年のノーベル生理学医学賞が決まった東京工業大学の大隅良典栄誉教授の「オートファジー」の研究は、JSTではなく同じ政府系機関の日本学術振興会(JSPS)が配分する科学研究費助成事業(科研費)の成果だった。科研費は研究者の自由な発想を支援する学術基礎研究のための公的投資。科学の芽を見つけ出す研究者にとっての「おもしろい研究」が対象となる。その対極にあるのが企業が拠出する産学共同研究費だ。製品化によって利益を期待できる「役に立つ研究」に投じられる。  JSTの事業は、この両者の中間に位置しているのが特徴。国の科学技術政策を背景に「おもしろい研究」と「役に立つ研究」の双方を支援する。ここで重要なことは成果を長期視点でみていくことだろう。

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