弱小球団と呼ばれ続けたベイスターズを躍進させた「空気」のチカラ
<情報工場 「読学」のススメ#17>『空気のつくり方』(池田 純 著)
**資金をつぎ込み補強をしなくてもチームは強くできる
今年の日本のプロ野球で、もっとも大きな話題といえば、何といっても広島東洋カープの大躍進だろう。だが、同じセントラル・リーグで、もう一つ、躍進した球団がある。横浜DeNAベイスターズだ。ペナントレースでは第3位と、10年ぶりにAクラス(リーグ上位3球団)入りを果たし、球団史上初めてクライマックスシリーズ(CS)に進出した。CSではファーストステージで2位巨人を打ち破り、ファイナルステージまで進んだ。
ベイスターズは、ほんの数年前まで最下位が「指定席」とも言われた弱小球団だった。前述のように2015年まで10年連続Bクラスに甘んじていた。2011年にはDeNAが球団を買収。元DeNA社員で、同社とNTTドコモの合弁会社E★エブリスタの社長を務めていた池田純さんが、35歳という若さで球団社長に就任した。
その池田さんが球団のマーケティング・ブランディング、経営戦略について語った著書が、『空気のつくり方』(幻冬舎)だ。
池田さんが社長に就任してから2015年までの4年間で、ベイスターズの観客動員数は65%もアップしたという。売上も80%増。就任当時24億円あった赤字を黒字化にもっていった。ホーム球場の横浜スタジアム(ハマスタ)の試合は連日満員で、観戦チケットがプラチナ化しているという。そう、ベイスターズは、チームの成績が躍進する前に、人気面、経営面で大躍進していたのだ。
通常、プロスポーツチームは試合に勝ち、強くなることを最優先に考える。強くなればチームの人気も上昇し、観客動員数が増え、収益もアップする。そうすれば経営も安定し、資金を使って補強などを行い、チームをさらに強くすることができる。良循環だ。
だが、『空気のつくり方』を読み、現在のベイスターズの躍進ぶりを見ると、チームを強くするやり方は、一つではないことがわかる。
正攻法では、他球団や海外から選手を補強したり、実績のある監督やコーチを招聘する。練習場やトレーニング機器、トレーナーなど環境を整えたりもする。だが、勝負は時の運である。いくら資金をつぎ込み、強くするための手段を講じたとしても、それが次シーズンの成績に直結するとは限らない。現に資金が潤沢にある人気球団が下位に沈んだシーズンは、これまでに山ほどある。
ベイスターズのやり方は正攻法ではなかった。池田さんは球団を強くするのに「空気」を使った。正攻法では、巨人や阪神を上回ることは難しい。それに、「時の運」に左右されるやり方では確実性がないし非効率だ。池田さんは同書で「勝敗や天候はコントロール不能。ならばコントロール可能な領域に徹底的に力を注ぐべき」と言っている。
では、池田さんのいうコントロール可能な領域とは何か。まずは球場だ。球場を、チームが負けても楽しめる「ボールパーク」にする。そして地元の横浜市や神奈川県の住民たちにハマスタやベイスターズに関心と親しみをもってもらうような仕掛けをする。さらに、横浜という街のイメージに合わせた「おしゃれでカッコイイ」と感じさせるブランディングを行う。これらが驚異的な観客動員増につながる「空気」をつくっていった。
そして連日の満員の観客は、「人気球団の空気」をつくった。その空気を吸い込んだ選手たちの自信やモチベーションが向上したことは想像に難くない。そうしてチーム全体を「勝てる空気」が覆っていったのだろう。2016年シーズンのベイスターズには、明らかにその空気をみてとれた。リーグ第3位、CSファイナルステージ進出という実績をみても「弱小チーム」とレッテルを貼り続ける人は、よもやいないはずだ。
<次のページ、確実に勝ちを狙いにいける方向から攻めていく>
今年の日本のプロ野球で、もっとも大きな話題といえば、何といっても広島東洋カープの大躍進だろう。だが、同じセントラル・リーグで、もう一つ、躍進した球団がある。横浜DeNAベイスターズだ。ペナントレースでは第3位と、10年ぶりにAクラス(リーグ上位3球団)入りを果たし、球団史上初めてクライマックスシリーズ(CS)に進出した。CSではファーストステージで2位巨人を打ち破り、ファイナルステージまで進んだ。
ベイスターズは、ほんの数年前まで最下位が「指定席」とも言われた弱小球団だった。前述のように2015年まで10年連続Bクラスに甘んじていた。2011年にはDeNAが球団を買収。元DeNA社員で、同社とNTTドコモの合弁会社E★エブリスタの社長を務めていた池田純さんが、35歳という若さで球団社長に就任した。
その池田さんが球団のマーケティング・ブランディング、経営戦略について語った著書が、『空気のつくり方』(幻冬舎)だ。
池田さんが社長に就任してから2015年までの4年間で、ベイスターズの観客動員数は65%もアップしたという。売上も80%増。就任当時24億円あった赤字を黒字化にもっていった。ホーム球場の横浜スタジアム(ハマスタ)の試合は連日満員で、観戦チケットがプラチナ化しているという。そう、ベイスターズは、チームの成績が躍進する前に、人気面、経営面で大躍進していたのだ。
通常、プロスポーツチームは試合に勝ち、強くなることを最優先に考える。強くなればチームの人気も上昇し、観客動員数が増え、収益もアップする。そうすれば経営も安定し、資金を使って補強などを行い、チームをさらに強くすることができる。良循環だ。
だが、『空気のつくり方』を読み、現在のベイスターズの躍進ぶりを見ると、チームを強くするやり方は、一つではないことがわかる。
正攻法では、他球団や海外から選手を補強したり、実績のある監督やコーチを招聘する。練習場やトレーニング機器、トレーナーなど環境を整えたりもする。だが、勝負は時の運である。いくら資金をつぎ込み、強くするための手段を講じたとしても、それが次シーズンの成績に直結するとは限らない。現に資金が潤沢にある人気球団が下位に沈んだシーズンは、これまでに山ほどある。
ベイスターズのやり方は正攻法ではなかった。池田さんは球団を強くするのに「空気」を使った。正攻法では、巨人や阪神を上回ることは難しい。それに、「時の運」に左右されるやり方では確実性がないし非効率だ。池田さんは同書で「勝敗や天候はコントロール不能。ならばコントロール可能な領域に徹底的に力を注ぐべき」と言っている。
では、池田さんのいうコントロール可能な領域とは何か。まずは球場だ。球場を、チームが負けても楽しめる「ボールパーク」にする。そして地元の横浜市や神奈川県の住民たちにハマスタやベイスターズに関心と親しみをもってもらうような仕掛けをする。さらに、横浜という街のイメージに合わせた「おしゃれでカッコイイ」と感じさせるブランディングを行う。これらが驚異的な観客動員増につながる「空気」をつくっていった。
そして連日の満員の観客は、「人気球団の空気」をつくった。その空気を吸い込んだ選手たちの自信やモチベーションが向上したことは想像に難くない。そうしてチーム全体を「勝てる空気」が覆っていったのだろう。2016年シーズンのベイスターズには、明らかにその空気をみてとれた。リーグ第3位、CSファイナルステージ進出という実績をみても「弱小チーム」とレッテルを貼り続ける人は、よもやいないはずだ。
<次のページ、確実に勝ちを狙いにいける方向から攻めていく>
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