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日本企業、日本人のテロ対策意識を考える

2020年の東京五輪・パラリンピックを控え真剣に立ち向かう時がきた

専門家に聞く企業と個人のテロ対策


「社内で人材育成を」


 日本企業は国内外のテロにどのように備えるべきか。また、海外拠点のカントリーリスクをどのように判断したらよいか。企業のテロ対策において注意すべき点などについて、日本大学危機管理学部の教授に聞いた。


 ―企業が行うべきテロ対策は。
 「企業は自社の業務内容と照らしあわせて『ソフトターゲット』として狙われるリスクを評価しなければならない。ソフトターゲットとは、主要国首脳会議や五輪など大きな注目が集まるイベントや、文化や経済の象徴となる観光地、交通機関やインフラなど公共の施設・機関を指す。2001年の米同時多発テロは、ソフトターゲットが狙われた象徴的な事件といえる」

 ―企業にとって必要なテロ対策は。
 「企業の事業継続計画(BCP)は自然災害に対するものが一般的だが、テロ対策に特化したBCPの検討も必要だ。テロを未然に防ぐためだけでなく、仮にテロが発生した後も業務を継続し、社員や顧客の命を守ることにつながる」

 ―海外に拠点を持つ企業や、進出を考えている企業が取り組むべきことは。
 「大使館などと連携して、拠点となる国のどこでどのようなテロ事件が起きているかといった情報を集めることが重要だ。情報収集は現地の支社に任せるのではなく、本社がトップダウンで情報を伝えるといった危機管理体制を作ることが望ましい」

 ―企業がテロ対策を行う上で取り組むべき人材育成は。
「テロが起こるリスク評価・分析ができる人材の育成だ。一般的には警察や防衛関係など社外から招いた人材に頼り切ってしまう企業もあるが、テロ対策ができる人材を社内で育てる必要がある。また、腰を据えて人材を育成するための制度設計も求められる」

【記者の目・人材育成が急務】
 テロ事件が多い国に拠点を持つ企業にとって、危険な地域などの情報収集は社員の命を守ることにつながる。ソフトターゲットへのテロが増える中、2020年の東京五輪・パラリンピックでは東京都全体がテロの標的となる危険性を指摘する意見もある。企業はテロ対策や人材育成を急ぐ必要がある。
(文=福沢尚季)
【略歴】
福田充(ふくだ・みつる)99年(平11)東大院人文社会系研究科博士課程単位取得退学。02年日大法学部専任講師、05年助教授、08年米コロンビア大戦争と平和研究所客員研究員、10年教授。兵庫県出身、47歳。政治学博士。

「一点に集中しすぎるのは危険」 


 テロ対策の機材やサービスは開発・整備が進んでいるが、テロはいつどこで発生するか予測できない。日本でもテロは身近に迫る。防衛大学校の宮坂直史教授に、身近なテロへの意識の持ち方と、東京五輪・パラリンピックのテロ対策について聞いた。


 ―企業が行うべきテロ対策は。
 「危機管理の担当者だけがテロ対策をするのではなく、一人ひとりが周囲の異変に気付くことが重要だ。2008年に千葉県市原市の検査会社から放射性物質の入った装置が盗難される事件があったが、従業員や出入り業者によるテロ事件もある。監視するのではなく、お互いに関心を持つことで変化が分かることもある。何かおかしいと思ったら、声をかけることが必要だ」

 ―市民生活に関係する場所でもテロは起きるでしょうか。
 「硫酸や塩酸など爆発物の材料にもなる薬物を扱う薬局やホームセンターでは注意が必要となる。薬局などでは、爆発物を作る危険性のある客を見抜く訓練が14年頃から全国で行われている。爆発物を作ろうとしている段階で不審者を見抜かねばならない」

 ―テロ対策にあたり日本の課題は。
 「危機管理においては、あらゆるものの分散が基本。利便性を追求して一点に集中しすぎると、危険性が高まる。例えばJR東京駅は新幹線やバスの発着拠点だが、そういった場所で感染病の病原体が散布された場合、全国に病原体が拡散してパンデミック(疾病の大規模流行)につながる恐れがある」

 ―2020年の東京五輪・パラリンピックがテロの標的となる危険性は。
 「(トライアスロンや水泳、ビーチバレーなどの競技会場として予定されている)お台場は橋を渡らないと災害拠点病院がない。テロが起きたときに備えて、病院船を東京湾に準備するなど、なんらかの形で橋が封鎖された場合の対策が必要になると思う」

【記者の目/各自、テロへの警戒高めよ】
東京五輪はほとんどの競技会場を半径8キロメートル圏内におくコンパクトさが一つの売り。しかし、テロ対策の観点からすれば危険が伴う側面もある。開催に向けて、より一層の対策が必要となりそう。テロはいつどこで起こるか分からないが、各自がテロへの警戒意識を高め、事件の兆候をつかむきっかけをつくる必要がある。
(福沢尚季)
【略歴】
宮坂直史(みやさか・なおふみ)93年(平5)早大院政治学研究科後期博士課程1年次退学、同年専修大法学部助手、96年専任講師。99年防衛大学校助教授、08年教授。東京都出身、53歳。



日刊工業新聞2016年9月20日/10月6日/7日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
個人的には幸い、海外でも国内でも幸い、危険に遭遇したことはない。海外駐在経験もなく危機意識は高くない方だろう。ただ、昨年のパリ、今年のニース、先日のニューヨークなど発生場所には訪れたこともあったので相当なショックを受けた。日常で緊張を保ち続けるのは難しい。ソフトターゲット対策でも国ももっとできることが多くあるはず。

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