仙台発、話題の「足こぎ車いす」ベンチャーがいよいよ一般向けに販売
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「歩行反射」を引き出す職人技
足こぎ車いすはなぜ、足が不自由で動けない患者でも漕ぐことができるのか。生後2カ月くらいまでの赤ちゃんの両脚を床につけると、自然と床を脚で交互に蹴って進むような動きをする。これは人間が原始持っている「歩行反射」という性質。足こぎ車いすはこの歩行反射を引きだし、ペダルを小さな脚力でこいで車輪を回せるものである。神経を刺激するためリハビリにも役立つという。
「歩行反射を引き出すためには車いすの座面とペダルの位置、角度が非常に重要。オーエックスエンジニアリングの職人技に助けられました」(鈴木氏)。Mサイズであれば身長145cm~180cmまで対応している。
常識を破る輪
足こぎ車いすの研究開発は「足こぎ車いす研究会」を組織して行っている。医療関係の先生をはじめ、工学部の先生や介護士など各方面からの知見を取り入れ、TESSが意見を取りまとめてオーエックスエンジニアリングに試作機作成を依頼。試作機をもとに台湾のパートナー企業で量産設計及び生産し、TESSで販売するという流れだ。現在、1年間に1,000台ほどを販売している。
しかし、新しい機器が受け入れられにくい現状もある。「リハビリの常識では、『この状態の人はどうリハビリしてもここまでしか動かないだろう』という常識があり、足こぎ車いすは『ありえない』と言われてしまう」(鈴木氏)。
そこで販売のアプローチは「患者会」という患者に直接アピールする場を活用。効果を実感してもらい、患者から医師に「足こぎ車いすを使用したい」と伝えてもらうようにしたところ、販売の輪が広がってきている。
現在までに5,000台近くが販売されており、今後4~5年かけて年間4万台販売まで伸ばしていきたいという。鈴木氏は「現在、電動車いすの販売台数が減少しています。電動車いすに乗ると足を動かす機会が減り、要介護度が上がってしまうことを懸念する傾向が強まっているからで、足こぎ車いすはそういった今の時代にマッチする製品だと考えています」と話す。
共感を広げる
宮城県商工会議所などが実行委員会に参加する「みやぎ優れMONO」にも認定され、他県に行ったときの強みになっている。鈴木氏が「地方発のベンチャーとしての強みは『生活・人との密着性』」と話すように、介護という身近なテーマが人を介してじわじわと共感を広げている。
地域を盛り上げていく活動としても、『生活・人との密着性』をテーマにイベントを開催。住宅展示場で実際の生活に近い環境での試乗会や、足こぎ車いすを利用した旅行などを行っている。
「足こぎ車いすは、健常者も障がい者も希望を持って暮らせるためのアイテムの一つ。使うことによって使用者だけでなく、周りの人も幸せになれるものですね」(鈴木氏)
日刊工業新聞2016年8月5日