ジビエで地域おこし!鳥獣被害対策も兼ねて一石二鳥
作物被害の増加で注目される野生鳥獣肉「ジビエ」の活用。今、鳥獣被害対策としてだけでなく、地域おこしの一環として推進しようと一石二鳥・三鳥を狙う動きが加速している。“ジビエプロジェクト”を進める商工会議所、商工会の動きを追った。
若手が発起
地域衰退が続く愛知県設楽町津具地区。地域おこしを―、と若手が声をあげ、津具商工会(愛知県設楽町)を事務局に会員事業所、農業者、他団体22人で「奥三河つぐ高原グリーンツーリズム推進協議会」を2013年7月に設立した。
取り組むことになったのが、景観整備、イベント開催に加えて“ジビエの活用”。同地区では鳥獣による農作物被害や人との接触事故などが頻発。政府も被害抑制のためジビエ利用促進を打ち出していたからだ。
ジビエビジネス推進には適切な仕入れから解体・処理、保管が必要。そこで、農林水産省の交付金650万円と町の補助金400万円に協議会員の拠出金・住民寄付金を合わせ1500万円で食肉処理施設を造った。旧農協施設を借り受け改築、「奥三河高原ジビエの森」と名付け事業を昨年4月スタートした。
猟友会と連携
仕入れでは地区3町村に180人の会員を持つ猟友会と連携。生きたままでの捕獲連絡をもらい、引き取りに出向き、自ら“とめ刺し”と“回収”をする。これでトレーサビリティーが確保できる体制が構築された。
3月末までの1年間でイノシシ、シカ合わせて200頭を処理。地区では毎年、合計約1000頭が捕獲される。「目標とする年間300頭をクリアし、いずれは500頭処理、販売できる体制を構築したい。18年をめどにジビエの森を組合か株式会社として、一本立ちさせる計画だ」(今泉哲也津具商工会事務局長代理)と話す。
奥三河つぐ高原グリーンツーリズム推進協議会ではイベント事業として「つぐ高原マルシェ『秋の収穫祭』」を展開するが、その一環として周辺3商工会の飲食・宿泊・小売り事業者を集め「ジビエ料理教室」を開いている。これまでの2回で、対象90店舗中40店舗が参加した。「こんなにおいしいんだ」との声も上がり、ジビエによる町おこしの期待も高まっている。
“秩父”はシカによる食害でシラビソ中心に数十本という単位で「立ち枯れ現象」がおき、自然環境が保全できなくなっている。加えて、農作物被害も甚大。さらに事業所も、人口も減少の一途。そこで西秩父商工会(埼玉県小鹿野町)は一石二鳥・三鳥を狙って鹿産業創出に向けて動きだした。
まず、経済産業省の採択を得て13・14両年度の小規模事業者地域力活用新事業全国展開支援事業「森の恵み“秩父の鹿”を活用したライダー(観光客)向けちちぶのじかプロジェクト」をスタート。食肉活用では鹿肉ココナツカリー、ローストベニスン、鹿肉ハンバーグなど、皮革活用ではウイスキーボトル・ネットやファスト・シューズなどの商品化に向けた調査研究事業を実施した。
これにより、「一応、課題は解決できた。食肉はめどが立ちこれからが事業化に向け本格的なスタート段階」と西秩父商工会の指導員からこの春、荒川商工会の事務局長に転じた神林秀典氏は話す。すでに15年9月には「秩父天然鹿の味噌漬け丼」を商品化、14店舗で提供を開始。高タンパク、低脂肪、低コレステロールの肉として評判もいいという。
また、ロースト用の肉として都内、横浜、川崎、さいたまのフレンチレストランへ供給も開始した。さらにジビエとしての活用だけでなく皮革での利活用も含めて事業全体のブラッシュアップを進めるため農水省の交付金を得て本年度からの2カ年事業にも取り組む計画。これで、“鹿産業”を実現する考えだ。
ちょっと変わった“ジビエプロジェクト”を展開しているのが、小松商工会議所(石川県小松市)の「こまつ地美絵」実行委員会。同商工会議所は小松市の活性化のため経済産業省の地域力活用新事業∞全国展開プロジェクトに応募。11年、調査研究事業として食のイベントと九谷焼のコラボレーションを試みた。この中で出てきたのが、「町衆文化」と「自然の恵み」「モノづくり」の融合だ。
さらに小松文化を代表する「茶道」とモノづくりの「九谷焼」、自然の恵み「ジビエ(イノシシ)」を組み合わせた新たな食イベント「小松食の祭典」を実現しようと「こまつ地美絵プロジェクト」を2年間の本体事業として取り組んだ。事業を進める中で、新しいアイデアも生まれ事業の将来性を確信。14年度には県の補助金を得て、九谷焼の酒器や、ジビエに合う日本酒の開発にも着手。
さらに本年度はジビエなどの流通経路の安定化や洋食にあう九谷焼皿の開発などを進める。13年度試行、14年度から始めた「食の祭典」も参加が8店から13店に拡大。ジビエ勉強会も回を重ねて「食べた人もおいしいといっている。小松の交流人口を拡大、元気にするためにも成功させたい」という。
「ジビエ」とはフランス語で狩猟により捕獲された野生鳥獣の食肉のこと。欧州では貴族階級が狩猟後、調理・食し、伝統料理として発展してきた。日本でも、イタリアン、フレンチの高級食材として注目されている。
その要因はジビエの流通ルートができ始めたから。日本では野生鳥獣の増加・拡大により、農作物被害は年間約200億円と高水準で推移。今年はクマ、イノシシなどによる人的被害が増えており、農水省などが対策を強化。埋設処理はもったいないと処理加工施設などの建設に対する支援も実施、徐々に食材活用のためルートが確保され始めた。
そこに、内閣府が地域資源としてジビエを利活用するための体制構築の取り組みに対し地方創生推進交付金を支出、経産省も地域力活用新事業∞全国展開プロジェクトなどで支援、環境省も都道府県によるシカ、イノシシの捕獲の取り組みなどを支援している。
政府の本年度の捕獲目標はシカ、イノシシ合計で約50万頭。だが、野生鳥獣の食肉などへの利用は14年度で約14%。これを28年度に30%へ拡大する計画だ。
(文=石掛善久)
愛知県設楽町−ジビエビジネス、18年めどに法人化
若手が発起
地域衰退が続く愛知県設楽町津具地区。地域おこしを―、と若手が声をあげ、津具商工会(愛知県設楽町)を事務局に会員事業所、農業者、他団体22人で「奥三河つぐ高原グリーンツーリズム推進協議会」を2013年7月に設立した。
取り組むことになったのが、景観整備、イベント開催に加えて“ジビエの活用”。同地区では鳥獣による農作物被害や人との接触事故などが頻発。政府も被害抑制のためジビエ利用促進を打ち出していたからだ。
ジビエビジネス推進には適切な仕入れから解体・処理、保管が必要。そこで、農林水産省の交付金650万円と町の補助金400万円に協議会員の拠出金・住民寄付金を合わせ1500万円で食肉処理施設を造った。旧農協施設を借り受け改築、「奥三河高原ジビエの森」と名付け事業を昨年4月スタートした。
猟友会と連携
仕入れでは地区3町村に180人の会員を持つ猟友会と連携。生きたままでの捕獲連絡をもらい、引き取りに出向き、自ら“とめ刺し”と“回収”をする。これでトレーサビリティーが確保できる体制が構築された。
3月末までの1年間でイノシシ、シカ合わせて200頭を処理。地区では毎年、合計約1000頭が捕獲される。「目標とする年間300頭をクリアし、いずれは500頭処理、販売できる体制を構築したい。18年をめどにジビエの森を組合か株式会社として、一本立ちさせる計画だ」(今泉哲也津具商工会事務局長代理)と話す。
奥三河つぐ高原グリーンツーリズム推進協議会ではイベント事業として「つぐ高原マルシェ『秋の収穫祭』」を展開するが、その一環として周辺3商工会の飲食・宿泊・小売り事業者を集め「ジビエ料理教室」を開いている。これまでの2回で、対象90店舗中40店舗が参加した。「こんなにおいしいんだ」との声も上がり、ジビエによる町おこしの期待も高まっている。
埼玉県小鹿野町−都市部に鹿の肉・皮革を供給
“秩父”はシカによる食害でシラビソ中心に数十本という単位で「立ち枯れ現象」がおき、自然環境が保全できなくなっている。加えて、農作物被害も甚大。さらに事業所も、人口も減少の一途。そこで西秩父商工会(埼玉県小鹿野町)は一石二鳥・三鳥を狙って鹿産業創出に向けて動きだした。
まず、経済産業省の採択を得て13・14両年度の小規模事業者地域力活用新事業全国展開支援事業「森の恵み“秩父の鹿”を活用したライダー(観光客)向けちちぶのじかプロジェクト」をスタート。食肉活用では鹿肉ココナツカリー、ローストベニスン、鹿肉ハンバーグなど、皮革活用ではウイスキーボトル・ネットやファスト・シューズなどの商品化に向けた調査研究事業を実施した。
これにより、「一応、課題は解決できた。食肉はめどが立ちこれからが事業化に向け本格的なスタート段階」と西秩父商工会の指導員からこの春、荒川商工会の事務局長に転じた神林秀典氏は話す。すでに15年9月には「秩父天然鹿の味噌漬け丼」を商品化、14店舗で提供を開始。高タンパク、低脂肪、低コレステロールの肉として評判もいいという。
また、ロースト用の肉として都内、横浜、川崎、さいたまのフレンチレストランへ供給も開始した。さらにジビエとしての活用だけでなく皮革での利活用も含めて事業全体のブラッシュアップを進めるため農水省の交付金を得て本年度からの2カ年事業にも取り組む計画。これで、“鹿産業”を実現する考えだ。
石川県小松市−茶道、九谷焼とコラボ
ちょっと変わった“ジビエプロジェクト”を展開しているのが、小松商工会議所(石川県小松市)の「こまつ地美絵」実行委員会。同商工会議所は小松市の活性化のため経済産業省の地域力活用新事業∞全国展開プロジェクトに応募。11年、調査研究事業として食のイベントと九谷焼のコラボレーションを試みた。この中で出てきたのが、「町衆文化」と「自然の恵み」「モノづくり」の融合だ。
さらに小松文化を代表する「茶道」とモノづくりの「九谷焼」、自然の恵み「ジビエ(イノシシ)」を組み合わせた新たな食イベント「小松食の祭典」を実現しようと「こまつ地美絵プロジェクト」を2年間の本体事業として取り組んだ。事業を進める中で、新しいアイデアも生まれ事業の将来性を確信。14年度には県の補助金を得て、九谷焼の酒器や、ジビエに合う日本酒の開発にも着手。
さらに本年度はジビエなどの流通経路の安定化や洋食にあう九谷焼皿の開発などを進める。13年度試行、14年度から始めた「食の祭典」も参加が8店から13店に拡大。ジビエ勉強会も回を重ねて「食べた人もおいしいといっている。小松の交流人口を拡大、元気にするためにも成功させたい」という。
政府−交付金で普及後押し
「ジビエ」とはフランス語で狩猟により捕獲された野生鳥獣の食肉のこと。欧州では貴族階級が狩猟後、調理・食し、伝統料理として発展してきた。日本でも、イタリアン、フレンチの高級食材として注目されている。
その要因はジビエの流通ルートができ始めたから。日本では野生鳥獣の増加・拡大により、農作物被害は年間約200億円と高水準で推移。今年はクマ、イノシシなどによる人的被害が増えており、農水省などが対策を強化。埋設処理はもったいないと処理加工施設などの建設に対する支援も実施、徐々に食材活用のためルートが確保され始めた。
そこに、内閣府が地域資源としてジビエを利活用するための体制構築の取り組みに対し地方創生推進交付金を支出、経産省も地域力活用新事業∞全国展開プロジェクトなどで支援、環境省も都道府県によるシカ、イノシシの捕獲の取り組みなどを支援している。
政府の本年度の捕獲目標はシカ、イノシシ合計で約50万頭。だが、野生鳥獣の食肉などへの利用は14年度で約14%。これを28年度に30%へ拡大する計画だ。
(文=石掛善久)
日刊工業新聞2016年7月25日 中小・ベンチャー・中小政策面