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「医工連携」予算シフトで研究者を“本気”にさせる

これで世界と渡り合えるか。開発最前線を追う
「医工連携」予算シフトで研究者を“本気”にさせる

サンメディカル技研の補助人工心臓のイメージ(慶大提供)


iPSとHAL組み合わせ


 国際電気通信基礎技術研究所(ATR)脳情報通信総合研究所の川人光男所長と昭和大学発達障害医療研究所の加藤進昌所長らは、脳の活動パターンから自閉スペクトラム症(ASD)を見分けるAI技術を開発した。

 ASD患者74人と健常者107人の脳活動を機能的磁気共鳴断層撮影装置(fMRI)で計測。脳の140領域の関係性(脳回路)を調べ、9730の回路図の中からASD特有の接続を16個見いだした。膨大なデータから発見を導くのはAIのなせる技だ。これを基にASDの判定指標を作成。日本人での正答率は85%。米国のデータでは正答率は75%だった。

 加藤所長は「ASDと診断された患者でも、本当にASDなのは1割程度」という。これは症状を基に発達障害を診断することが難しいためだ。川人所長は「症状ではなく、脳回路を基に疾患を診て治せれば、精神系医療の再定義につながる」と期待する。統合失調症や注意欠陥多動性障害(ADHD)でも研究を進めている。


 再生医療とロボットも日本が世界をリードする分野だ。慶大医学部の中村雅也教授とサイバーダインはiPS細胞(人工多能性幹細胞)と装着型ロボット「HAL」を組み合わせた神経再生治療を開発する。脊髄損傷などで断線した神経をiPS細胞でつなぎ直し、HALでその修復具合を計りながら神経の使い方を訓練する。

 中村教授らはiPS細胞を使って脊髄の神経回路の再構築に成功している。現在は移植細胞の安全性を確立中で、2018年をめどに脊髄損傷患者への治験に進む予定だ。HALも患者の治験を進め、その後iPS細胞とHALを組み合わせた併用治療に取り組む。中村教授は「iPSとHALは治療と効果評価の両方の標準を狙える。新しい医療を創る挑戦になる」と力を込める。
(文=小寺貴之)
日刊工業新聞2016年6月28日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
医学系の研究者は「自分は『便利な道具』を作っているのか、『新しい医療』を作っているのか」と悩みます。『道具』を作ってもコスト競争からは抜けられません。医療を独占してこそ利益が上がり、次の医療をつくる投資ができます。手術支援ロボ「ダヴィンチ」は、そのシステムの中で新しい術式が生まれ、医師が育ちました。新しい医療を作り、事業も大成功でした。「ダヴィンチ」の特許が切れたため、日本でも後続機の開発が進んでいます。高瀬教授は「ダヴィンチの次世代機は従来機と別次元。モノマネでは絶対に勝てない」と。科学的に治療効果を示して広める力が必要です。「良い技術ができたら臨床開発は外資と進めるべき。日本企業には国内市場を任せる程度に留めないと世界で戦えない」と言う医師もいます。悔しいですが、海外の医学系と国内の工学系が組んでも良いのかもしれません。(日刊工業新聞社科学技術部・小寺貴之)

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