トリリオン・センサー時代に日本の半導体産業は巻き返し可能か
研究成果の論文発表でも存在感薄れる。米国企業が先導、アジア勢も追い上げ
最先端の半導体開発において、IoT(モノのインターネット)や人工知能(AI)が新たなキーワードとして定着してきた。13日に米ハワイで開幕した半導体の3大国際会議の一つ、「VLSIシンポジウム」では、新たな潮流として、AIや自動車業界から注目の招待講演が行われる。IoTは既に共通のテーマになり、IoT技術を駆使したロボットやヘルスケア向けの半導体技術が多数発表される。今、世界で最もホットな半導体の研究成果とは―。
VLSIシンポジウムは、LSIに関する最先端の成果が毎年報告される世界最高峰の国際会議。「半導体のオリンピック」と呼ばれる国際固体素子回路会議(ISSCC)は回路技術のみ、国際電子デバイス会議(IEDM)はデバイス技術のみを扱う。一方、VLSIは回路とデバイス技術の両面から議論するのが特徴だ。
2016年の会議のテーマは「スマート社会への変革の兆し」。半導体の微細化のスピードが鈍化する中で、システムレベルのイノベーションが産業の変革を促すと見通す。従来のように、汎用の半導体を量産するだけでは顧客のニーズを十分に満たせない。会議では、システムを明確に志向した先端半導体の論文が発表される。
なかでも、VLSI回路シンポジウムのジェフリー・ギーロウ実行委員長が「IoTによる産業エレクトロニクスの変化が一つの焦点になる」と表明するように、スマート社会を実現する大前提にIoT技術がある。
IoT分野の注目論文の一つが、米インテルが発表する自己給電可能な無線のセンサー端末だ。太陽電池で給電し、1000ルクスと暗い室内の照明でも連続的に動作する。周囲の環境から採取した、微小なエネルギーを利用する環境発電(エネルギーハーベスティング)技術を使って、完全無線による自己駆動を実現した。
IoTデバイスを小型電池で動かすための低消費電力化の要求も強まっている。米テキサス・インスツルメンツ(TI)は、ボタン電池1個で3日間稼働するLSIを開発した。脈波と心電図を同時に計測できる、ヘルスケアモニター装置向けの技術だ。省電力の無線通信規格(ブルートゥース・ロー・エナジー)に対応する。
(ボタン電池1個で動くヘルスケア向けLSI=米TIが開発)
一方、AIで注目されるのは、従来比約4倍のエネルギー効率で文字や画像を認識するディープラーニング(深層学習)向けのプロセッサー。ベルギーのルーヴェン・カトリック大学が開発した。
深層学習のアルゴリズムの一つである畳み込みニューラルネットワーク(CNN)向けの素子で、世界一の効率を達成。高効率化により、CNNに基づく音声や文字、物体認識などの大規模な処理を低電力でリアルタイムに実行できるようになる。
基調講演では米グーグルが、AI技術の一つである機械学習の進化についての展望を明らかにする。現在の機械学習は、限定的な問題に対しては人間に近い性能を示すものの、人間の「脳」の能力にはまだほど遠い。過去約10年間のAIの進化は「計算性能の向上によるもの」であり、今後も「計算機システムと回路技術の改良がAIの進歩に重要な役割を果たす」との見解が述べられるようだ。
スマートカーやロボット向けの半導体も近年のトレンドになっている。パナソニックは窒化ガリウム製の高効率パワー半導体を開発し、自動車やロボットへの搭載を狙う。米TIは電気自動車や飛行ロボット(ドローン)向けの最先端のモーター制御技術を披露する。日産自動車からは、浅見孝雄専務執行役員が「VLSIで実現するインテリジェント・モビリティー」と題して講演する。
ソニーは得意のイメージセンサーで、最新のグローバルシャッター機能対応の素子を発表。機械的なシャッター機構を搭載できないビデオカメラに、電子的なグローバルシャッター機能を組み込んで歪みのない高速撮像を可能にする。ニデック(愛知県蒲郡市)と奈良先端科学技術大学院大学は共同で、49本の刺激電極アレイを使い、失明した患者の光覚を一部再建できる人工網膜を開発した。
(ソニーが開発したグローバルシャッター機能搭載イメージセンサー)
微細化の最先端は、韓国のサムスン電子と米IBM、台湾のTSMCがそれぞれ、10ナノメートル世代(ナノは10億分の1)以細の技術プラットフォームを発表する。いずれも最新のフィン型の立体構造トランジスタ(FinFET)を採用する。
TDKの米子会社ヘッドウェイ・テクノロジーズと東芝、台湾のマクロニクスは、量産化間近の不揮発性メモリーを報告。微細化の限界を超える3次元LSIなどの集積化技術も見どころだ。
半導体の微細化はこれまで、チップに搭載する素子の数が18―24か月で倍増するとする「ムーアの法則」に従って順調に進んできた。だが、微細化には陰りが見え始めている。今年の会議はムーアの先を見据え、「モアムーア、モアザンムーア、それともモア・スローリー」との議題を掲げた。
ムーアの法則をさらに進めるのか、異種の素子を集積して機能を高めるのか、それとも減速するのか、との刺激的な内容だ。世界のトップ企業や研究機関、大学から専門家が集まり、熱い議論を繰り広げそうだ。
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LSI最高峰の会議が開幕
VLSIシンポジウムは、LSIに関する最先端の成果が毎年報告される世界最高峰の国際会議。「半導体のオリンピック」と呼ばれる国際固体素子回路会議(ISSCC)は回路技術のみ、国際電子デバイス会議(IEDM)はデバイス技術のみを扱う。一方、VLSIは回路とデバイス技術の両面から議論するのが特徴だ。
2016年の会議のテーマは「スマート社会への変革の兆し」。半導体の微細化のスピードが鈍化する中で、システムレベルのイノベーションが産業の変革を促すと見通す。従来のように、汎用の半導体を量産するだけでは顧客のニーズを十分に満たせない。会議では、システムを明確に志向した先端半導体の論文が発表される。
なかでも、VLSI回路シンポジウムのジェフリー・ギーロウ実行委員長が「IoTによる産業エレクトロニクスの変化が一つの焦点になる」と表明するように、スマート社会を実現する大前提にIoT技術がある。
IoT・A分野の注目論文が続々
IoT分野の注目論文の一つが、米インテルが発表する自己給電可能な無線のセンサー端末だ。太陽電池で給電し、1000ルクスと暗い室内の照明でも連続的に動作する。周囲の環境から採取した、微小なエネルギーを利用する環境発電(エネルギーハーベスティング)技術を使って、完全無線による自己駆動を実現した。
IoTデバイスを小型電池で動かすための低消費電力化の要求も強まっている。米テキサス・インスツルメンツ(TI)は、ボタン電池1個で3日間稼働するLSIを開発した。脈波と心電図を同時に計測できる、ヘルスケアモニター装置向けの技術だ。省電力の無線通信規格(ブルートゥース・ロー・エナジー)に対応する。
(ボタン電池1個で動くヘルスケア向けLSI=米TIが開発)
一方、AIで注目されるのは、従来比約4倍のエネルギー効率で文字や画像を認識するディープラーニング(深層学習)向けのプロセッサー。ベルギーのルーヴェン・カトリック大学が開発した。
深層学習のアルゴリズムの一つである畳み込みニューラルネットワーク(CNN)向けの素子で、世界一の効率を達成。高効率化により、CNNに基づく音声や文字、物体認識などの大規模な処理を低電力でリアルタイムに実行できるようになる。
基調講演では米グーグルが、AI技術の一つである機械学習の進化についての展望を明らかにする。現在の機械学習は、限定的な問題に対しては人間に近い性能を示すものの、人間の「脳」の能力にはまだほど遠い。過去約10年間のAIの進化は「計算性能の向上によるもの」であり、今後も「計算機システムと回路技術の改良がAIの進歩に重要な役割を果たす」との見解が述べられるようだ。
スマートカー、ロボット向けもトレンドに
スマートカーやロボット向けの半導体も近年のトレンドになっている。パナソニックは窒化ガリウム製の高効率パワー半導体を開発し、自動車やロボットへの搭載を狙う。米TIは電気自動車や飛行ロボット(ドローン)向けの最先端のモーター制御技術を披露する。日産自動車からは、浅見孝雄専務執行役員が「VLSIで実現するインテリジェント・モビリティー」と題して講演する。
ソニーは得意のイメージセンサーで、最新のグローバルシャッター機能対応の素子を発表。機械的なシャッター機構を搭載できないビデオカメラに、電子的なグローバルシャッター機能を組み込んで歪みのない高速撮像を可能にする。ニデック(愛知県蒲郡市)と奈良先端科学技術大学院大学は共同で、49本の刺激電極アレイを使い、失明した患者の光覚を一部再建できる人工網膜を開発した。
(ソニーが開発したグローバルシャッター機能搭載イメージセンサー)
微細化は10ナノメートル世代
微細化の最先端は、韓国のサムスン電子と米IBM、台湾のTSMCがそれぞれ、10ナノメートル世代(ナノは10億分の1)以細の技術プラットフォームを発表する。いずれも最新のフィン型の立体構造トランジスタ(FinFET)を採用する。
TDKの米子会社ヘッドウェイ・テクノロジーズと東芝、台湾のマクロニクスは、量産化間近の不揮発性メモリーを報告。微細化の限界を超える3次元LSIなどの集積化技術も見どころだ。
半導体の微細化はこれまで、チップに搭載する素子の数が18―24か月で倍増するとする「ムーアの法則」に従って順調に進んできた。だが、微細化には陰りが見え始めている。今年の会議はムーアの先を見据え、「モアムーア、モアザンムーア、それともモア・スローリー」との議題を掲げた。
ムーアの法則をさらに進めるのか、異種の素子を集積して機能を高めるのか、それとも減速するのか、との刺激的な内容だ。世界のトップ企業や研究機関、大学から専門家が集まり、熱い議論を繰り広げそうだ。
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日刊工業新聞2016年6月14日 深層断面