エアバス、受注残との“旅”
主力工場から垣間見える余裕と焦り
足元の受注は一段落
空前の受注残に対応する一方、足元の受注状況は落ち込んでいる。ファブリス・ブレジエ社長兼最高経営責任者(CEO)が明らかにした16年の受注目標は650機。好調だった15年の受注実績1139機を大きく下回る。
原油安による燃料価格下落により、燃費効率の良い新型機の魅力が相対的に薄れたこと、LCCからの大規模受注が一段落したことなどが原因とみられる。
1―5月の受注実績は200機と低迷したが、ブレジエ社長兼CEOは「引き渡す機数よりは多く受注したい」と目標を掲げた。引き渡し数の同数という、一定水準は維持できると見込む。
落ち込みが目立つが、むしろこれまでが上出来だった。ほぼ毎年1000台以上受注していたこの5年間と比べると、16年の受注ペースは見劣りする。だがブレジエ社長兼CEOが「受注よりもバックログ(受注残)が重要」と指摘するように、エアバスに悲壮感はない。
競合の米ボーイングも同じ境遇にある。民間航空機部門の受注実績(キャンセル分を差し引いた純受注)は、14年に過去最高となる1432機を記録したが、15年は768機に落ち込んだ。16年3月末時点は121機で、15年3月末時点の110機と同水準となっている。
だがボーイングも3月末時点で約5700機と、エアバス同様に多くの受注残を抱える。14年末時点の約5800機とそう変化しておらず、増産対応が求められる。
両社には足元の受注残に加え、今後予想される受注の伸びが待ち受けている。アジア太平洋地域の経済成長により、旅客機需要は右肩上がりの成長が見込まれる。エアバスは34年の旅客機市場が14年比2倍の約3万6000機に増えると予想する。
受注残、そして将来の需要増加は、エアバスにとって安心材料にも不安材料にもなっている。直近の受注低迷に動じないのは、豊富な受注残があるからだ。一方で、受注残が積み上がり、顧客に機体を予定通り引き渡せるかが懸念される。エアバスの受注残との旅は果てしなく続く。
(文=名古屋・戸村智幸)
日刊工業新聞2016年6月10日