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《パナソニック編》半導体技術者はなぜ気鋭のマーケターになったのか 

eコマースでカメラを変える!木綿秀行氏(コンシューマーマーケティングジャパン本部)に聞く
 スマートフォンやテレビなど日本のコンシューマエレクトロニクスは世界で存在感が低下している。パナソニックも最近はBツーB(企業向け)ビジネスに力を入れているが、家電・AV機器メーカーのDNAはしっかりと社内に流れている。デジタルカメラのeコマース(電子商取引)で新しい仕掛けにチャレンジし続ける木綿秀行氏。もともと半導体のエンジニアだった彼がなぜベンチャーとの協業に目覚めたのか。

ランサーズとのコラボが大反響


 ー木綿さんは入社当時、最初は半導体の技術者だったそうですね。
 木綿「はい。プロセスエンジニアでした。他社との共同開発プロジェクトや、魚津工場(現在は外資との合弁)の300mmラインの立ち上げなどに携わりました」

 ーそれがなぜマーケティングに?
 木綿「入社して3年目くらいですかね。同期たちが、『この商品(家電)に携わったんだ!』と大声で喜んでいる事例が身近に出てきたんです。そのことがきっかけで、家電に興味を持ち始め、この会社に入ったのなら家電事業をやりたいと思いました。当時、人事公募制度があり、家電のマーケティング部門の募集に手を上げ異動になったのは2006年です」

 ー最初からeコマースに興味があったんですか。
 木綿「いえ、配属希望で具体的な要望はしていません。私が運営に携わっていたメーカー直販サイト『パナソニック ストア』では、商品を購入いただくための延長保証のようなサービス提案や、ここでしか売っていないオリジナル商品を作ることで、独自性を出していました」

 ー付加価値をどうやって生み出すか、ということですね。
 木綿「そうです。それで結果的に異業種、ベンチャー企業と組むケースが増え、協業会社さんと二人三脚で、ウェブを中心に比較的尖った層を相手にピンポイントなマーケティング活動をしてきました」

 ー2013年にクラウドソーシングのベンチャー、ランサーズと一緒にやったデジタルカメラのデザイン募集は話題になりました。どのような経緯で?
 木綿「当時、パナソニックストアで、カメラの外装デザインをお客様がカスタマイズしてオリジナルカメラを作ることができる仕組みを立ち上げたところだったのですが、立ち上げ当初からクラウドソーシングで多種多様なデザインを調達して商品化することを考えていました」

 「ランサーズで広報などを担当していた山口豪志氏(現在は独立)とはクックパッドにいた時からの知り合いで、お客様の好きなデザインを商品化する仕組みとクラウドソーシングを掛け合わせたら面白いかな、と思い山口氏のところに相談しました。話を持ちかけて、秋好(陽介)社長もぜひやりましょうと。とても反響を頂き、応募総数が1300を超え、当時のランサーズとしてはダントツ最多の応募数となったと伺っています」


工場側との議論を徹底的に


 ーそこから50件に絞り込んでいく過程で苦労もあったのでは。
 木綿「大変でしたね。1300件すべてのデザインに自分で目を通して、デザイナーの方々とも一人ひとり連絡をとりました。でもデザイナーの中には『パナソニックの人と直接やり取りができて非常に興奮している』『ルミックスのファンです』と連絡をくれた人達もいて、胸が熱くなりましたね」

 ー商品化する時にメーカーはどこの工場で作るかがとても大切ですが。最初は福島工場で生産したと聞いています。
 木綿「そうです。50種類のデザイン全てで印刷ずれが起きないか、色味が忠実に表現できるのかなどを福島工場の技術者と電話会議を重ね、ものづくり側との議論も徹底的に行いました」

 ー木綿さんがマーケティング(企画部門)一筋ではなく工場や事業部を経験していたことも、プロジェクトを進める上で大きかったのでは。
 木綿「そうかもしれませんね。当時、半導体の工場立ち上げにも携わりましたし、テレビ事業部で海外向けの商品企画の経験もあったので、『商品がどのくらいの期間で出来上がるのか』、『どれだけの人が関わっているのか』、『その間にどのくらいの決裁を通さないといけないのか』ということは肌感覚として持ち合わせていたので」

 「事業部もこれまでのような大量生産以外のビジネスにも挑戦していく必要があると感じていたので、こういう新規性のある企画を持っていけば、ビジネスになるのではないかと。実際、かなり前向きな議論をすることができました」

カメラ学校に通って得た確信


 ーカメラの案件が多いですが、いろいろ仕掛けやすいプロダクツなんですか。
 木綿「私がカメラを担当していたということもありますが、趣味嗜好性が非常に強くて、ニーズが多様で、付加価値の乗せ甲斐があり、トライアルもしやすいカテゴリーだと思います。実は元々はカメラには興味がなかったんです。でもこだわりを持つ方が多く、非常に深い世界と言う事が分かり、自らが写真の世界を理解できるようカメラ学校等に通い、スタジオでの撮影やレタッチを手がけるようになりました」

 「そうした知見があったので、昨年出会ったグラムスの三浦(大助社長)さんが立ち上げた画像自動加工サービス『ZenFotomatic』が撮影の現場に革新を起こす、と感じることができたんです。今回は三浦社長と一緒にカメラのIoT化と言う切り口で新たな挑戦に取り組みました」


 ー撮影・画像加工・アップロードの工程をすべて「ルミックス」内で完結させるeコマース事業者向けのソリューションですね。今日は三浦さんも同席されていますが、パナソニックさんと付き合ってみて大企業の壁のようなものは感じましたか。

 三浦「振り返ってみると、パナソニックと言うか、木綿さんと付き合っていたという感じです。木綿さんじゃないとなかなか実現は難しかったと思います。うちは従業員が10人も満たない外国人ばかりの会社なのですけど、どのくらい時間がかかるのかと思っていたら、そのスピード感に驚きました。僕らの開発が追いつけないくらいのスピードで判断して下さって大企業でもこんなにスムーズに合意形成できるんだ、と思いましたね」

<次のページ、新しい価値を生む変化の波は社内に起こっている>

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明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
パナソニックをかれこれ10年以上もウォッチ(取材も含め)しているが木綿氏のような人はなかなかお目にかかれない。社外より社内論理を優先する風土は津賀さんが社長になってからもまだまだ残っている。前にもどこかでコメントしたが、グローバル会社を指向する中で、日本企業はおろかまだ「門真の会社」(本社のある場所)という印象もある。それでも事業部門やマーケの部門で着実に変化の兆しがあることを今回のインタビューで分かったのは嬉しい。木綿氏ぐらいの資質なら独立したり他社でも通用するだろう。それでもご本人は「パナソニックだからできることがある」と言っていることをとても心強く思う。

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