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世界でスマートコミュニティーを仕掛ける日本の実証ドライバーとは

NEDOが日本企業とタッグを組み、エネルギーシステム変革を先導
世界でスマートコミュニティーを仕掛ける日本の実証ドライバーとは

充電時間をシフトして風力発電の電力を吸収するEV(マウイ島)


カナダは太陽光発電と充電池を非常用電源に活用


 15年度から新しい海外実証事業も立ち上がった。カナダ・オシャワ市では、太陽光発電と蓄電池を家庭の非常用電源として活用する実証事業が始動した。

 トロントから60キロメートル離れたオシャワ市は、冬になると雪が落下して電線を切断するといった凍害による停電が多発する。200回の停電を記録した年もある。

 NEDOは田淵電機に委託し、家庭30戸に太陽光パネルと蓄電池の設置を進めている。太陽光や電力会社の電力を蓄電池にため、停電時に家庭の電力を賄う。太陽光と蓄電池の両方の電流を1台で制御できる田淵製のインバーター(パワーコンディショナー)も導入した。

 早い家庭は15年秋から運用しており、今冬の停電時に機能を確認済みだ。ただし、技術実証だけが目的ではない。NEDOの杉本麻里亜スマートコミュニティ部主任は「普及のためのビジネスモデル」をポイントに挙げる。蓄電池は高価なことが普及への障壁となっている。蓄電池をリース契約して個人の負担を軽くする案があり、経済性を検証する。

 ビジネスモデルを確立できるとオシャワ市と気候が近い米国北部、太陽光発電が普及する米国南部への展開が期待できる。蓄電池は日本の強い分野であり日本企業の海外展開が後押しされそうだ。

(太陽光、蓄電池を非常用電源とする実証が始まった住宅=カナダ・オシャワ市)

マレーシア・プトラジャヤ、電気バスに超急速充電技術


 マレーシアの行政首都プトラジャヤ市では、電気バスを実証する。東芝製リチウムイオン電池を搭載した大型バス10台、充電機能を持つバス1台を組み立て、今秋に実際の運行ルートに投入する。

 東芝、ピューズ(東京都千代田区)、ハセテック(横浜市港北区)、オリエンタルコンサルタンツグローバル(東京都渋谷区)の4社が参加する。

 10分間の充電で30キロメートルを連続走行できる“超”急速充電技術が特徴だ。営業時間内に充電を繰り返せるのでバスに搭載する蓄電池を少なくでき、乗客席を増設できる。逆に充電時間が長いと営業が終わった夜間しか充電ができない。日中の充電切れを防ぐために蓄電池を増量すれば車体が重くなる。NEDOは2階建ての電気バス2台も世界に先駆けて運用する。

(マレーシア・プトラジャヤで運用する電気バス、左は2階建て)

 NEDOの佐野浩スマートコミュニティ部主幹は「プトラジャヤの暑さや湿度に耐えられれば、世界中のどこでも電気バスが運行できる証明にもなる」と話す。

 アジアの新興国は激しい交通渋滞と大気汚染に悩まされている。NEDOはマレーシアから新しい交通システムをアジア各国に発信する。

 温暖化対策の新しい枠組み「パリ協定」の採択があり、世界各国でエネルギーを効率的に使うシステムが求められている。地域で異なる要望に応えたNEDOと日本企業の実証成果は各国で通用しそうだ。
(文=松木喬)

※6月15日ー17日まで東京ビッグサイトで「スマートコミュニティJapan 2016」が開催されます。
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日刊工業新聞2016年6月9日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
FSが始まった11年当時、ハワイ実証は「スマートグリッド」の象徴的なプロジェクトでした。当時、日本では再生可能エネルギーの発電が増えすぎる課題も、仮想発電所のイメージもありませんでした。そういう意味で、数年先の社会を先取りしたプロジェクトと言えるのはないでしょうか。

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