乳がん診断技術に新しい可能性
医療機器メーカーの研究開発進むも、社会全体で早期の対策必要
「MRI」の有効活用
MRIも乳がん領域での利用が拡大する。東芝メディカルシステムズは乳房MRIの普及を目指し、機能強化に取り組む。MRIは乳がん検出の感度が高く、多発性乳がんや広がり診断に適しているほか、「特にハイリスク群に対するスクリーニング検査に有用だと言われている」(千葉寿恵東芝メディカルシステムズ国内営業本部MRI営業部営業技術担当主任)。同社は乳がんを発見しやすくするための脂肪抑制画像機能や乳房専用コイルなどを開発し、レディースクリニックなどにMRI導入を提案している。
(乳がん検査機能を充実する東芝メディカルシステムズのMRI)
乳がんで乳房を全摘出した後のシリコーンインプラント再建手術が13年に保険適用されたことから、「インプラントのスクリーニングでの利用も増えてきた」(同)という。
それまで自由診療だったため高額な手術費用を全額自己負担しなければならず、保険適用を待ち望んでいた患者も多い。MRIはシリコーンを高信号に描出するといったことが可能で、インプラントの経過観察が新たな用途として加わった。
陽電子放射断層撮影を実用化
(乳がんの早期発見につながる乳房用PET装置=古河シンチテック)
新しい乳がん検査装置も登場し始めている。古河シンチテック(福島県いわき市)は陽電子放射断層撮影(PET)技術を使った乳房用PETを実用化。PETは放射性医薬品を投与し細胞代謝を画像描出するもので、乳房用に機器を特化させた。現在は仙台画像検診クリニック(仙台市青葉区)で装置が稼働。古河シンチテックの薄善行社長は「乳がん検査の選択肢の一つになり得る。今後の普及に力を入れていく」と意気込む。
キヤノンは京都大学と「光超音波マンモグラフィー」の共同開発を進めている。血液は光を吸収し熱膨張する。熱膨張によって発生する超音波をセンサーで検出し画像を再構成する。
がんは進行過程で酸素や栄養を取り込むため新しい血管をつくり血液を引き込む。この新生血管を観察し、乳がんを診断する仕組みだ。現在臨床試験が行われている。光超音波マンモグラフィーは近赤外光を乳房に当てるだけで検査が可能なため、身体の負担が少なく早期実用化が期待されている。
企業が社員をサポートして乳がん対策に取り組む例もある。健康経営に力を入れるテルモは乳房MRI検査の受診費用を補助する活動を始めた。日本の女性を苦しめる乳がんは発症する年齢も大きな問題だ。
高齢化によって増える他のがんとは異なり、罹患率のピークは40歳代後半から始まる。現役世代の若い女性が罹患するため、社会に与える影響は大きい。女性が活躍できる社会づくりのためにも早期対策が必要だ。
(文=宮川康祐)
※内容は当時のもの
日刊工業新聞2015年11月16日