今年が「国際光年」って知ってますか?
国連が制定する未来を照らす光技術は日本人が会長
2015年は国連が定める「国際光年」。光に関するイベントや講演会が世界各地で開かれる。身近な存在であるがゆえに、表舞台に立つことの少なかった「光」が今、にわかに脚光を浴びている。地球上のあらゆる生命活動は太陽光の恩恵を受けており、人類の暮らしにも今なお、光は欠かせない。一方、科学技術の世界でもその重要性は近年増すばかりだ。光技術の歴史と、未来を照らす注目の光テクノロジーの一端をのぞいてみよう。
【日本人が会長】
国際年は、世界規模で取り組むべきテーマを国連が制定し、国際社会に呼びかける1年だ。今年は「近代光学の父」と呼ばれるハイサムの光学研究から1000年という節目の年。さらに、フレネルの光の波動説から200年、マクスウェルの光電磁波説から150年、アインシュタインの一般相対性理論から100年、カオの光ファイバーの提唱から50年でもある。
こうした光技術の革新を祝って、15年は「光と光技術の国際年」とすると国連が宣言した。1月にはフランス・パリのユネスコ本部で盛大なオープニングセレモニーが開かれた。
芸術や文化を創造してきた「光」に加え、「光技術」にも焦点を当てており、科学者の組織である国際光学委員会(ICO)が中心となって各国の活動を推進する。折しも、現ICO会長は量子ドットレーザーの発明で知られる荒川泰彦東京大学教授が務める。
「科学と技術において、光は中核の一つ。さまざまな視点から光を国民全体で見直そう」(荒川教授)と日本も自然と熱が入る。日本人の会長は47年のICO創設以来3人目だ。日本では日本学術会議が先導し、学協会や大学、企業、研究機関を集めて「国際光年協議会」を設置。シンポジウムなどを通じて市民への啓発活動を行う。
青色発光ダイオード(LED)を開発した3人の研究者に対し、14年12月にノーベル賞が贈られたことで、日本における国際光年の幕開けは一段と華やいだ。21日に東大の安田講堂で開かれた記念式典には、受賞者である天野浩名古屋大学教授も駆けつけ、会場は熱い興奮に包まれた。
22日には横浜で光とレーザー技術に関する国際会議(OPIC)が開幕した。半導体レーザーのパイオニアである末松安晴(現東京工業大学名誉教授)氏が登壇し、光ファイバー通信の長距離化をもたらした技術を紹介。「光通信が今日のインターネット社会や情報通信技術(ICT)社会を切り開き、ナレッジトランスファー(知識移転)が起きた」と述べた。
【ネット時代拓く】
カオは66年、純粋な石英ガラスを使って高効率の光ファイバーが作れると予言。4年後には実用的な光ファイバーが完成した。日本はこの分野で先駆的な業績が数多い。63年にはすでに末松氏らが光ファイバー通信の伝送実験を実施。70年代には、川上彰二郎(現東北大学名誉教授)氏らが光ファイバーの高性能化技術を、伊澤達夫(現千歳科学技術大学理事長)氏らが光ファイバーの製造技術(VAD法)を発表した。
80年代になると伊賀健一(現東工大名誉教授)氏らが、現代の高速光通信に欠かせない面発光レーザーの室温連続動作に成功。中沢正隆(現東北大教授)氏らは、光通信の大容量化につながるエルビウム添加光ファイバー増幅器を開発した。次世代光源として注目されている量子ドットレーザーも、この頃提案されている。これらの技術によって世界中を結ぶ光ファイバーが開通し、インターネット時代が本格化した。
光技術は現在も、物理学や化学、生物学、天文・宇宙などの自然科学分野から、ICTやロボット、生産技術、人工知能に至るまで、幅広い分野で必須のテクノロジーだ。その利用分野は計り知れない。こうした現状を承知の上で、あえて最近の顕著な成果を挙げるならば、一つに「光格子時計」の研究がある。
香取秀俊東大教授らは理化学研究所と共同で、160億年たっても1秒しか狂わない究極の時計を開発した。光格子時計と呼ばれるこの時計は、現在の「秒」を定義するセシウム原子時計を1000倍近く上回る世界最高の精度を持つ。秒の“再定義”を迫るだけでなく、「スーパークロック(超時計)は従来の時計の概念を覆す。光格子時計ネットワークとして、社会実装も検討する」と香取教授は力を込める。
【地球的問題解決】
「光子」を操り、量子暗号通信や量子コンピューターを実現しようとする研究も活発だ。古澤明東大教授らは3月、アインシュタインが提唱した「光子の非局所性」と呼ぶ物理現象を世界で初めて実証。これまで説得力のある検証ができず、物理学における100年来の論争と呼ばれた解釈に決着がついたとされた。
NTTが今月発表した、光子だけで長距離の量子暗号通信が行えるという新概念も注目に値する。従来は必須だと思われていた量子メモリーが不要になり、長距離の量子暗号通信が容易に実現すれば、「量子インターネット」という新分野が近い将来に開ける可能性がある。「光子が次世代の量子情報処理技術の統一言語になる」(NTT)との見方もある。
一方で、世界に目をやれば、いまだに5人に1人、約13億の人々が明かりのない日々を過ごす現状がある。太陽電池をはじめとする再生可能エネルギーや、省電力な白色LED照明の一層の普及が求められる。天野教授もこうしたことを望むとともに、今後は「新開発の高出力深紫外LEDで水を殺菌し、恵まれない地域にきれいな飲料水を提供したい」と地球問題の解決を目指す。
荒川ICO会長は「光はまた、心の中にも存在するものである」とし、人々の心に光をともすことによって「ダーク(闇)な世界をなくそう」と声を上げる。光はこれまでも、そしてこれからも人類の未来を照らすテクノロジーであり続けるのだろう。
【日本人が会長】
国際年は、世界規模で取り組むべきテーマを国連が制定し、国際社会に呼びかける1年だ。今年は「近代光学の父」と呼ばれるハイサムの光学研究から1000年という節目の年。さらに、フレネルの光の波動説から200年、マクスウェルの光電磁波説から150年、アインシュタインの一般相対性理論から100年、カオの光ファイバーの提唱から50年でもある。
こうした光技術の革新を祝って、15年は「光と光技術の国際年」とすると国連が宣言した。1月にはフランス・パリのユネスコ本部で盛大なオープニングセレモニーが開かれた。
芸術や文化を創造してきた「光」に加え、「光技術」にも焦点を当てており、科学者の組織である国際光学委員会(ICO)が中心となって各国の活動を推進する。折しも、現ICO会長は量子ドットレーザーの発明で知られる荒川泰彦東京大学教授が務める。
「科学と技術において、光は中核の一つ。さまざまな視点から光を国民全体で見直そう」(荒川教授)と日本も自然と熱が入る。日本人の会長は47年のICO創設以来3人目だ。日本では日本学術会議が先導し、学協会や大学、企業、研究機関を集めて「国際光年協議会」を設置。シンポジウムなどを通じて市民への啓発活動を行う。
青色発光ダイオード(LED)を開発した3人の研究者に対し、14年12月にノーベル賞が贈られたことで、日本における国際光年の幕開けは一段と華やいだ。21日に東大の安田講堂で開かれた記念式典には、受賞者である天野浩名古屋大学教授も駆けつけ、会場は熱い興奮に包まれた。
22日には横浜で光とレーザー技術に関する国際会議(OPIC)が開幕した。半導体レーザーのパイオニアである末松安晴(現東京工業大学名誉教授)氏が登壇し、光ファイバー通信の長距離化をもたらした技術を紹介。「光通信が今日のインターネット社会や情報通信技術(ICT)社会を切り開き、ナレッジトランスファー(知識移転)が起きた」と述べた。
【ネット時代拓く】
カオは66年、純粋な石英ガラスを使って高効率の光ファイバーが作れると予言。4年後には実用的な光ファイバーが完成した。日本はこの分野で先駆的な業績が数多い。63年にはすでに末松氏らが光ファイバー通信の伝送実験を実施。70年代には、川上彰二郎(現東北大学名誉教授)氏らが光ファイバーの高性能化技術を、伊澤達夫(現千歳科学技術大学理事長)氏らが光ファイバーの製造技術(VAD法)を発表した。
80年代になると伊賀健一(現東工大名誉教授)氏らが、現代の高速光通信に欠かせない面発光レーザーの室温連続動作に成功。中沢正隆(現東北大教授)氏らは、光通信の大容量化につながるエルビウム添加光ファイバー増幅器を開発した。次世代光源として注目されている量子ドットレーザーも、この頃提案されている。これらの技術によって世界中を結ぶ光ファイバーが開通し、インターネット時代が本格化した。
光技術は現在も、物理学や化学、生物学、天文・宇宙などの自然科学分野から、ICTやロボット、生産技術、人工知能に至るまで、幅広い分野で必須のテクノロジーだ。その利用分野は計り知れない。こうした現状を承知の上で、あえて最近の顕著な成果を挙げるならば、一つに「光格子時計」の研究がある。
香取秀俊東大教授らは理化学研究所と共同で、160億年たっても1秒しか狂わない究極の時計を開発した。光格子時計と呼ばれるこの時計は、現在の「秒」を定義するセシウム原子時計を1000倍近く上回る世界最高の精度を持つ。秒の“再定義”を迫るだけでなく、「スーパークロック(超時計)は従来の時計の概念を覆す。光格子時計ネットワークとして、社会実装も検討する」と香取教授は力を込める。
【地球的問題解決】
「光子」を操り、量子暗号通信や量子コンピューターを実現しようとする研究も活発だ。古澤明東大教授らは3月、アインシュタインが提唱した「光子の非局所性」と呼ぶ物理現象を世界で初めて実証。これまで説得力のある検証ができず、物理学における100年来の論争と呼ばれた解釈に決着がついたとされた。
NTTが今月発表した、光子だけで長距離の量子暗号通信が行えるという新概念も注目に値する。従来は必須だと思われていた量子メモリーが不要になり、長距離の量子暗号通信が容易に実現すれば、「量子インターネット」という新分野が近い将来に開ける可能性がある。「光子が次世代の量子情報処理技術の統一言語になる」(NTT)との見方もある。
一方で、世界に目をやれば、いまだに5人に1人、約13億の人々が明かりのない日々を過ごす現状がある。太陽電池をはじめとする再生可能エネルギーや、省電力な白色LED照明の一層の普及が求められる。天野教授もこうしたことを望むとともに、今後は「新開発の高出力深紫外LEDで水を殺菌し、恵まれない地域にきれいな飲料水を提供したい」と地球問題の解決を目指す。
荒川ICO会長は「光はまた、心の中にも存在するものである」とし、人々の心に光をともすことによって「ダーク(闇)な世界をなくそう」と声を上げる。光はこれまでも、そしてこれからも人類の未来を照らすテクノロジーであり続けるのだろう。