「H3」試験2号機に刻まれた“RTF”の意味
2月17日、大型基幹ロケット「H3」試験機2号機が宇宙航空研究開発機構(JAXA)種子島宇宙センター(鹿児島県南種子町)から打ち上がった。Return To Flight(飛行再開フライト)を意味する“RTF”の文字が刻まれた機体は見事ミッションを成し遂げ、打ち上げに成功した。試験機1号機の失敗から約1年後、H3は産声をあげることができた。
種子島ではH3試験機2号機の打ち上げの数カ月前から準備が始まった。原因の2段目に搭載した電気系の装置は約1カ月前に機能を点検し、問題がないことを確認。やり残したことはないかを探りつつ最終チェックを進めた。打ち上げ当日、予定時間ぴったりに種子島を飛び立ち、前回失敗した2段目の燃焼が確認された時には管制室から喜びの声が上がった。その後、搭載した衛星が予定の軌道に投入され、打ち上げは成功。H3が日本のロケットの新たな顔となった瞬間だった。
H3試験機2号機には大型衛星の代わりとなるダミー衛星と、キヤノン電子とセーレンなどの衛星が搭載された。試験機1号機が失敗した中で試験機2号機に衛星を載せた理由について、キヤノン電子の橋元健社長は「挑戦しないと技術の発展はない。輸送手段が限られる中で、搭載する機会をもらえたことがうれしかった」と説明。打ち上げ成功の知らせにも笑顔を見せた。
H3試験機1号機の失敗原因は早期に三つに絞られたが、詳細な調査には半年以上がかかった。主な原因は電気系システムにあったが、検討チームにはシステムに強い人材が多く、原因の根本を解く物理の理論学の専門家が少なかった。そこでJAXAの衛星開発チームや三菱重工業の技術者が原因解明に協力。普段ロケット開発に関わらない分野ならではのセンスが生かされ、原因が起こった機構が明らかになった。
原因の一つには従来機「H2A」から使っている部品などの適合性が指摘され、すべての部品や装置を見直した。そのため、開発に携わる企業の協力が欠かせなかった。衛星開発に携わっている情報通信研究機構の門脇直人主席研究員は「こうした検証には企業の協力と努力がないとできない」と振り返る。原因以外の部分も設計や部品などの適合性を再確認し、データを反映させて早急なRTFにつなげた。
ところでRTFは飛行再開フライトだけでなく、H3試験機2号機ではRetry of Test Flight(試験機の再挑戦)という意味も込められていた。再挑戦すべく多くの技術者が原因究明に関わる中で、失敗した技術的な知見が得られただけでなく若手の技術者が意欲的になったという。三菱重工業のH3プロジェクトマネージャーを務めた新津真行氏は「若手は失敗という怖さを知り、精神的に強くなった。ほんのわずかな設計でも自ら考える動きが見られるようになった」と振り返る。失敗が次世代の人材の技術と心を育てるきっかけにもなった。