三井物産が事業開発にも応用、生成AI実装であの手・この手
三井物産が国内外での生成人工知能(AI)の事業実装で活路を見いだしている。米国では自動車ディーラーの顧客対応システムに生成AIを活用するスタートアップに出資。三井物産の自動車販売にも展開してサービス効率化や業務工程の改革を狙う。国内ではコンタクトセンター(顧客対応窓口)事業の応対履歴の作成に生成AIを使い、膨大な顧客ニーズをマーケティングに生かす。人手不足対策にとどまらず事業開発にも応用して付加価値を創出する。(編集委員・田中明夫)
三井物産は、生成AIを使った自動車ディーラー向けシステムを開発する米ナンバーAI(デラウェア州)に出資。数社に対し実施した合計3200万ドル(約48億円)の第三者割当増資の一部を引き受けた。三井物産からナンバーの取締役1人を派遣し、連携も深める。
ナンバーのシステムでは留守番電話やメールに入った顧客からの修理・保守の依頼内容を生成AIが要約。チャットで担当者に取り次ぐほか、自動車の整備部門には部品の在庫状況を生成AIが問い合わせる。スタッフが店頭の接客対応に追われる中で「優秀なマネジャーをもう1人雇うのと同じ効果を得られる」(三井物産の竹内寛モビリティ第一本部本部長補佐)。
このシステムは北米で500以上のディーラーに採用されており、米ゼネラル・モーターズ(GM)ではディーラーへの推奨品として月額利用料の半額を補助しているという。今後は三井物産が参画する北米の自動車ディーラーへの導入を計画し、「(生成AIの機能に合わせた)業態変革にも使えないかを検討していく」(同)とする。
また三井物産はKDDIとの共同出資会社で国内最大級のコンタクトセンターを運営するアルティウスリンク(東京都渋谷区)でも生成AIの活用を推進。自動車メーカーや金融、小売業など1300社超から顧客対応の窓口業務を請け負う同社では、メールの作成・返信時間を人手によるチェック時間も含め従来比で半分の15分に削減した。
また応対履歴の要約作成にも生成AIを使う。アルティウスリンクの中島将和CX第7本部サービス第2部第1ユニット長補佐は「これまで音声でしか残っていなかったデータを文書化し、埋もれていた顧客の要望を有効に使える」と説明する。
さらに三井物産はアルティウスリンクが持つ年間約5億件の顧客の応対データを分析・加工して事業に生かす。赤司哲朗ICT事業本部デジタルマーケティング事業部長は「マーケティングや新商品の開発提案などへの活用を推進する」とし、ヘルスケアやフィンテックなど幅広い事業群の価値向上も狙う。
大手商社では生成AIを事業に生かす動きが広がっている。丸紅は社内で資料作成などに使って利便性を高めた生成AIシステムの外販を開始。双日はITスタートアップと連携し、衛星画像の分析に特化した生成AI基盤モデルを新興国の農業支援に生かすプロジェクトに着手した。