三井物産・住友商事・兼松…商社、脱炭素インフラ開発活発化
商社が国内で脱炭素関連のインフラ開発を活発化している。企業で調達ニーズが高まる太陽光由来電力を遠隔供給するほか、発電量の不安定な再生可能エネルギーの需給を調整する蓄電所を増設。さらに電気自動車(EV)の高機能充電器を投入するなど、電力のサプライチェーン(供給網)の上流から下流まで幅広くカバーする。商社の産業ネットワークを生かして、脱炭素システムの社会実装を着々と推し進める。(編集委員・田中明夫)
太陽光PPA 敷地外から供給
三井物産子会社の三井物産プラントシステム(MPS、東京都港区)は、顧客企業の敷地外の太陽光発電所から電力を供給するオフサイトコーポレートPPA(電力販売契約)で攻勢をかけている。コンビニエンスストアのセブン―イレブン約750店舗に対し、新設の太陽光発電所から調達した電力と環境価値を供給するサービスを3月から21年間の契約で始めた。今後は約2000店舗に供給網を広げる計画だ。
消費者の環境意識の高まりに対応する小売り企業や、データセンター(DC)で電力を大量消費するIT業界などでは再生エネの利用ニーズが高まっている。一方、大型の太陽光パネルを設置できる場所は限られ、事業者は遠隔地から再生エネを調達する必要性に迫られている。
MPSは太陽光発電所の開発や電力系統への接続などを手がけてきた実績を生かし、「(仕組みや契約が)複雑な遠隔からの電力供給の設計で知見を発揮していく」(谷垣匡輝社長)とし、オフサイトコーポレートPPAの受注拡大を狙う。
再生エネ調整蓄電所 中古EVバッテリー活用
住友商事は発電量が天候に左右される再生エネの需給調整役となる蓄電所の開発を強化しており、30年度末までに国内で50万キロワット規模以上の施設整備を目指す。23年には北海道千歳市で、日産自動車と共同で回収した中古のEVバッテリーなどを使う蓄電所を完成し、24年4月から需給調整市場で電力取引を始めた。
同蓄電所はEV約700台分のバッテリーを収納可能で、約2500世帯が1日に使う電力相当の6000キロワットを出力できる。住友商事の浜田盛亙エネルギーストレージビジネスユニット部長は「循環型経済に向けてEVバッテリーのリユースを含む事業モデル構築の足がかりにしたい」と語る。
また住友商事は、再生エネ比率が高い九州地方でJR九州の遊休地や沿線地を使って蓄電所開発を進めており、3月には第1号案件となる1500キロワットの出力を持つ設備を熊本市で完工。白鷺電気工業(熊本市東区)と連携し、同社にリースされているEVを電力系統に接続して需給調整に使う取り組みもこのほど始めた。
EV充電器 韓国製、日本投入で連携
兼松は韓国のEV充電器大手であるEVAR(エバー)と、日本などでの充電器販売で連携する覚書を6月に締結した。エバーは韓国サムスン電子から18年に分社したスタートアップで、複数のEVに効率的に給電する技術が強み。同国で累計約3万台の充電器を販売し、23年は2年連続で販売台数シェアが約20%とトップの実績を持つ。
兼松は子会社を通じ法人向けEV管理サービスを展開するモーション(東京都文京区)に出資するなど、EV関連事業を強化している。政府が23年時点で国内に約3万基あるEV充電器を30年までに30万基へと拡大させる目標を掲げる中、兼松の販路などを生かすことで24年度中に日本でエバー製EV充電器3000台の販売を目指す。
洋上風力など 全国各地に拠点
商社各社は30年にかけて全国各地で洋上風力発電を開発するほか、燃焼しても二酸化炭素(CO2)を排出しない水素・アンモニアの供給拠点など大型インフラの構築の検討も進めている。アンモニア調達網や再生エネを使った水素生産施設などを整備し、発電燃料や工場の熱源向けなどに水素・アンモニアを供給する見込みだ。
ただ政府の計画では30年度の電源構成のうち風力発電は5%、水素・アンモニアは1%を占めるにとどまる。短・中期の開発やエネルギーの安定供給の観点なども踏まえれば、19年度時点の約7%から30年度に15%前後への引き上げを目指す太陽光や需給調整力の整備を含めた開発を、同時並行で進める必要がある。
政府は50年のカーボンニュートラル(CN、温室効果ガス〈GHG〉排出量実質ゼロ)達成の中間目標として、30年度のGHG排出量を13年度比46%減にすることを目指している。“待ったなし”のCN社会実現に向けて、商社の事業創出力を生かしたインフラ開発競争が加速しそうだ。