国策・中韓に日本奮闘…技能五輪国際大会、愛知大会に残した課題
仏リヨンで行われた「第47回技能五輪国際大会」では日本の若手技能者らが奮闘し、金メダル5個を獲得した。国・地域別の金メダル獲得数で5位となったが、首位の中国は金メダル36個、2位の韓国は10個と大きな差が開いた。かつては日本が1位、2位だった時期もあるが、昨今は中国や韓国に追い上げられ、順位が停滞している。順位低下を現場力の低下と見る向きもあるが、技能五輪にかける各国の投資戦略の違いも結果に大きく反映されているようだ。(高島里沙)
訓練所・最新機械整備カギ
技能五輪は、原則22歳以下(一部25歳以下)の若者がモノづくりの技を競い頂点を目指す祭典。海外勢は職業訓練で力を付けた学生の参加が多い一方、日本勢のほとんどが大企業所属だ。中国・韓国は国を挙げて戦いに挑むが、日本は民間企業が選手を育成し手弁当で競技に参加する。
今回最多の金メダルを獲得した中国は多額の資金を投入して技能競技国家研究センターを設置。金メダルを獲得すると教授になれるなど一生生活に困らないと言われる。金メダリストに加え、選手指導や競技運営・評価にも関わるエキスパートの地位も高いとされる。
また韓国は政府が技能五輪国際大会のメダリストに賞金や勲褒章を授与する。そのため国際大会に出場する選手を選抜する時点で相当のレベル争いが繰り広げられている。
日本のモノづくりの現場力の低下という声もあるが、順位の開きには、このような国の投資額や戦略の違いが鮮明に表れている。国際大会の舞台裏では中国や韓国の選手同士で賞金がいくらかといった話題が持ち上がるという。一方、賞金がない日本選手はモチベーションを問われプライドだと答える場面もあるそうだ。
賞金や勲褒章の授与が多少選手のモチベーションにつながるかもしれない。だがそれよりも重要なのが、日本における訓練施設や最新鋭の機械設備の整備だ。出場企業からも「国内大会を国際大会のレベルに近づける必要がある」との声が多く上がる。国内大会とは課題のレベルや設備が異なるため、国際大会の出場が決まってから必要な機械設備の習熟などが求められる。
専門家固定、ノウハウ蓄積
また中国や韓国はエキスパートが長年固定されているため、各大会を通じたノウハウなどが蓄積される。一方日本では大会の都度企業がエキスパートを出している。出場企業が変わるたびにエキスパートも交代するため、その場限りとなり、ノウハウが蓄積されにくく戦略面で弱くなってしまう。全てにおいて企業任せになっている面が拭えず、資金力のある大手企業でなければ国際大会出場は難しいと言える。
そうした中、26年の上海大会に次ぐ28年大会の開催地が愛知県に決定した。日本では21年ぶりの国際大会の開催となる。技能五輪に挑戦する企業や選手を増やす必要があり、社会的な技能尊重の機運醸成が求められる。技能五輪を管轄する厚生労働省の安達佳弘参事官は「オールジャパンで成功に向けて準備したい」と語る。またモノづくり関連の日本の主力職種だけでなく「介護・医療サービスといったリヨン大会で日本勢が出場していない職種にも参加したい」と意欲を示す。
地元企業も盛り上げに一役買いそうだ。トヨタ自動車の松山洋司総務・人事本部副本部長は「日本で技能五輪の知名度は低い。愛知県開催はたくさんの人に知ってもらう意義がある。とはいえ、どこの開催地でも脈々とやり続けているので競技に取り組む姿勢は変わらない」と語る。デンソーの海老原次郎経営役員は「26年の上海で中国国内は相当盛り上がるはずだ。28年に向けて日本国内が盛り上がるように準備していきたい」と意気込みをみせる。
今大会のメダル獲得選手からは後進の育成に精進したいとの声が上がる。再生可能エネルギー職種で金メダルを獲得したきんでんの郡安拓海選手は「うれしい気持ちを後輩にも味わってもらいたいので指導に励みたい」と述べた。構造物鉄工で銅メダルだった豊田自動織機の天野玲選手は「次はコーチになる。経験を後輩に伝えて自分を超える選手を育てたい」と語った。大会を通じて得た技術やノウハウを次代に引き継いでいく。
磨いた技術商品に反映 「世界レベル」、開発の原動力
今大会には、69カ国・地域から過去最多となる1360人の選手が参加した。日本選手団は全59職種のうち47職種・55人が出場し、技能を競った。デンソーからは7職種・11人が、トヨタからは7職種8人が出場するなど2社で約3分の1を占める。
中でもトヨタは1962年の国際大会初出場以降、技能五輪に並々ならぬ思いをかける。トヨタの松山副本部長は「技能を磨くことが技術を高めるというトヨタの哲学そのもの。日本を背負っていくという気概はこれからも変わることはない」と語る。トヨタ技能者養成所の深津敏昭所長は「国際大会に出る選手の技能レベルは高く、金か銀かは紙一重の世界だ」と話す。
国際大会は多くの来場者が参加し、選手にも緊張が見られるなど平常心で競技には臨みにくい。深津所長は「トヨタのゴールはメダルの色よりも技能がどのように車に生かされるか。磨いた技能を世のため商品のためにいかに発揮していくかが大切だ」と語る。
国際大会で世界レベルを目の当たりにした選手が、現場に技術や技能を持ち帰り新たなものを生み出すことにこそ大会の意義があると言えそうだ。