「三菱重工初の世界一を目指して戦う」…22歳溶接技術者が語る技能五輪への道のり
世界の若き匠が持ち前の技能を競う第47回技能五輪国際大会が9月10日―15日にフランスのリヨンで開かれる。隔年開催だが前回はコロナ禍の影響で15カ国の分散開催だった。久々に1国に技能者が集う大会へ「モノづくりニッポン」代表で臨む主な選手を紹介する。
技能五輪を目指したのは高校1年生の冬。一つ上の先輩が県大会に出場している姿を見て「めっちゃ楽しそう。やりがいがありそうだ」と感じた。日立工業専修学校を卒業、技能五輪でのメダル獲得を目指して2021年4月、三菱パワー(現三菱重工業)に入社。呉工場(広島県呉市)を皮切りに、堀江翔さんは選手としての道を本格的に歩み始めた。
三菱重工は技能五輪について青年技能者の心技体を成長させる機会と捉える。高砂地区(兵庫県高砂市)では1972年第10回から参加しているが、国際大会への出場は初めて。「三菱重工初の世界一を目指して戦う」と堀江選手は意気込む。
好きなことを仕事にできる半面、“修行”は厳しい。最初に配属された呉工場では指導員とマンツーマンの日々を過ごし、同世代の選手と接することがなかった。高砂製作所(同)に異動してからは構造物鉄工など他種目ながらも同じ目標に向かって切磋琢磨(せっさたくま)する選手とのコミュニケーションが増え、刺激になった。
つらい時には「頑張るのではなく、努力しなさい。成し遂げるためには人より努力しなければいけない」と高校時代の恩師の言葉を思い出す。
自身の性格を「失敗しても気持ちを早く切り替えられる」と分析する。国際大会では合計18時間で課題を完成させることが求められる。長丁場をやり抜く上で心がけているのは良い意味での「集中力の分散」。想定外の事態に遭遇しても「ワンテンポ置く」ことで乗り切る考えだ。
第61回技能五輪全国大会電気溶接職種で金賞を受賞している堀江選手。国際大会でメダルを獲得するには「全ての課題で8―9割以上の完成度を達成すること」がカギと考える。「苦手をなくし、ミスを減らす」練習に重きを置いてきた。
高砂タービン製造部技能五輪推進グループで電気溶接指導員を務める難波健太氏は「堀江選手は知識、経験ともに豊富。心身ともに成長し、うまくいかないことに対して、良く考え、修正して自信につなげられる」ことが強みだと語る。
22歳の堀江選手が国際大会に出場できるのは実質、今回がラストチャンス。訓練の成果をいかんなく発揮すればメダルを引き寄せられる。その先には「技能五輪で身に付けた技術を一段と磨き、皆から頼られる人材になりたい」と堀江選手は前を見据える。(鈴木真央)
【溶接】 ステンレス鋼、アルミニウム、軟鋼材料を溶かして接合する競技。軟鋼平板の突合せ溶接、すみ肉溶接、パイプの全姿勢溶接、圧力容器、アルミ構造物、ステンレススチール構造物を製作する。金属は熱により膨張・収縮するため製品に歪みが生じやすく、精度を出すのが難しい技能。多様な溶接の技法・技術に習熟し、金属材料に対する知識が必要となる。競技では材料にヤスリがけ、研削などの下準備をしてから溶接に入る。