「H3」プロジェクトマネージャが考える、ロケットの確実な産業化に必要なこと
日本のロケット開発が加速している。7月には、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と三菱重工業が開発した新型の大型基幹ロケット「H3」の打ち上げに成功した。開発に参入する民間企業も増え、打ち上げに向けた技術開発が進む。H3プロジェクトマネージャを務めたJAXAの岡田匡史(まさし)理事にロケット開発の展望を聞いた。
部品規格共通化 必要に
―H3や小型の固体燃料ロケット「イプシロンS」の現状は。
「H3は本格運用に踏み出す中で、恒久的に使うメーンエンジン『タイプ2』の開発を進めている。3次元造形などを活用して製造するため、これまで400点ほどの部品で作っていた装置を1点でまかなえるといった低コスト化のカギにもなる。また、メーンエンジン3基だけで構成する『3―0形態』の開発も順調だ。設計は終了しているため、適切な時期に実証したい。イプシロンSは2段エンジンの開発を進めており、地上燃焼試験の準備をしている。2024年度内の打ち上げに向け、納得のいく形に仕上げたい」
―民間でも開発が進んでいます。
「スペースワン(東京都港区)やインターステラテクノロジズ(北海道大樹町)などは資金調達や技術開発を含めて自力で進めており、脱帽だ。最近ではスペースワンの打ち上げ失敗が注目されているが、ここまで開発できていることから、きっと乗り越えられるだろう。使えるロケットの数が増えれば日本の宇宙開発は促進する。民間の動きも応援したい」
―ロケットを確実に産業化するにはどうすべきですか。
「ロケットにはさまざまな部品や装置が使われており、それぞれ企業が製造している。産業化には安定的に部品などを供給できることが重要で、そのために安定した打ち上げ体制が必要だ。打ち上げの先が見通せないと各社の事業計画に影響する。H3はもう少しすると先が見通せる段階になる。これまで開発に携わってきた企業に感謝している」
―日本の開発を促すためのアイデアは。
「民間のロケットが本格的に打ち上げられる体制が整った時に、日本全体のロケットに共通した環境条件を設けることだ。例えばロケットと、搭載する人工衛星の結合部分の規格を共通化する。そうすれば衛星を搭載する予定のロケットに不具合があった場合でも、他のロケットで代用して速やかに打ち上げができるというバックアップ体制が作れる。ロケットのボリュームゾーンを広げることで、ユーザーが使いやすい環境ができるだろう」
―米国を中心に各国が開発を強化しています。
「日本では打ち上げができる場所が限られる中で、インフラを整えて最大の収容能力を発揮させることが求められる。米スペースXなどは打ち上げ回数が世界でもトップクラスだが、日本では受注が増え過ぎてしまうことは好ましくないだろう。それぞれの事業規模を考えて必要十分を満たすだけの競争力を付けることが重要だ。そのためには部品の3次元造形の多様化や再使用型などの技術開発も必要だ」
【記者の目/無理せず“日本らしさ”貫け】
ロケットの開発や打ち上げにおいて、日本は使えるリソースが限られている。米スペースXのように、年に何度も打ち上げができる環境はない。無理をせずに予算やインフラ、人材などを最大限活用した日本らしいロケット開発を進めることが重要だろう。(飯田真美子)