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渦中のセブン&アイ。M&Aから見えてくる「鈴木時代」の課題と次への布石

自主性が尊重され、業態間のシナジーが発揮されず
渦中のセブン&アイ。M&Aから見えてくる「鈴木時代」の課題と次への布石

業態別の営業利益推移


営業利益の94%がコンビニ・金融関連事業


 経営破たんしたそごうと西武を傘下に持つミレニアムリテイリングを06年に野村プリンシパルインベストメントから買収し、百貨店事業に進出すると同時に国内の小売業で第一位となる。07年にはいずれも専門店であるロフト、赤ちゃん本舗を相次いで子会社化。既存店舗との連携を図る。

 これらの結果、ホールディングス発足時には外部売上高が3兆8957億円であったのに対し、15年2月期のそれは6兆389億円と55%伸びている。売上構成もコンビニエンスストア事業が52%から45%へ低下。イトーヨーカドーなどのスーパーストア事業も43%から33%まで低下し、代わって百貨店事業が0%から15%と一定の存在を示しており、売上構成の面ではM&Aの効果が出ている。

 しかし、利益面からは別の世界が見える。コンビニエンスストア事業が順調に利益を伸ばしているのに対し、百貨店事業と通信販売事業は低収益、もしくは赤字の状況である。営業利益構成比では10年前の85%から80%まで低下しているが、これは同時期に金融関連事業の営業利益構成比が7%から14%に上昇している影響が大きい。

 つまり、セブン&アイ・ホールディングスの営業利益の94%はコンビニ事業と金融関連事業でたたき出していることになる。買収した百貨店事業の利益構成比は2%ほどに過ぎない。

オムニチャンネル構想からアグレッシブに


 さて、経営戦略としてオムニチャンネルの構想を掲げた13年から同社のM&A攻勢は目覚ましい。オムニチャンネルとは、リアル店舗とネット販売という違いだけでなく、コンビニと百貨店といった業態の違いも超えた、あらゆる販路をもシームレスに統合し、どのような販路でも顧客に同じ購買体験を提供することを趣旨としたものだ。

 ここ最近のM&Aでは13年12月のニッセンホールディングスに対するTOBが起点となった。実店舗・ネット販売の双方で顧客との接点を広げる構想の中、EC(電子商取引)分野が補完されることになる。

 ニッセンのTOBと時を同じくしてバーニーズ ジャパンの株式取得を行い、15年には完全子会社化。同ブランドにおける顧客ロイヤルティーの高さ、子会社のミレニアムリテイリングが営む百貨店事業との親和性の高さを買ったかたちであり、同時にオムニチャンネルに乗せる商品としての展開も視野に入れる。

 14年1月にはFrancfranc(フランフラン)で知られるインテリア雑貨店バルスの株式を48.67%取得している。

 また、セブン&アイ・ホールディングスは1号店を東京都・千住で開店したヨーカ堂がルーツであることから、歴史的に関東地区に強く、地域によっては強みが十分に発揮できていない。

 それを補完するために、有力な地場スーパーへの資本参加も行っている。11年に近鉄子会社の近商ストアに30%出資(後に資本提携解消)、13年7月に北海道帯広に本拠地を置くダイイチに30%出資、13年12月に岡山と広島に店舗を持つ天満屋ストアに20%出資している。これらは自社店舗網が薄い地域の補完効果を持つものと期待される。

小売業に徹したM&A戦略。次に描く業態は何か


 セブン&アイ・ホールディングスによる買収は、一貫して小売業をターゲットとし、その中でポートフォリオを描いている。コンビニ、スーパーを軸とし、百貨店、専門店から通信販売と多様な業態を持つセブン&アイ・ホールディングスであるが、ドラッグストアなど、まだ傘下にはない業態もある。

 01年に新規参入した銀行業など、金融関連も小売業を補完する位置づけとしてM&Aのチャンスがありそうだ。特にインターネットが普及したことで小売業と金融業の垣根は低くなっている。オムニチャンネルを推進していくにあたり、同社のM&A戦略を占うには「何が足りないか」がカギを握るだろう。

※この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。
2015年08月24日公開
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
セブン&アイ・ホールディングスのM&Aはそごう・西武、ニッセンホールディングス、バーニーズジャパン、地方のスーパーなど引退を表明した鈴木敏文会長が決めたものが多いです。ただ、これまでは各社の自主性が尊重され、業態間のシナジーが発揮されているとは言い難い状態です。セブン&アイではネットと店舗を融合したオムニチャネル戦略を推進していますが、今後オムニを基盤に業態間のシナジーが生まれるかどうか。これまでのM&A戦略の成否も問われることにもなりそうです。

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