ニュースイッチ

月内にも目安…「最低賃金」上げ幅焦点も、中小負担重く

月内にも目安…「最低賃金」上げ幅焦点も、中小負担重く

10日に開催された「目安に関する小委員会」では労使が互いの主張を初めて表明した

2024年度の「最低賃金」をめぐる議論が本格化する。過去最大だった23年度の引き上げ額「43円」を上回り、主要国で見劣りする賃金がどこまで底上げされるかが焦点だ。ただ歴史的な円安に見舞われ、経営環境が厳しい中小企業の「支払い能力」への配慮も欠かせない。中小の生産性向上や事業再生が今後進展し、持続的な賃上げが実現するかが問われている。(編集委員・神崎明子)

春闘成果、波及に期待 価格転嫁・稼ぐ力課題

最低賃金は、中央最低賃金審議会(厚生労働相の諮問機関)が例年7月中に引き上げ額の「目安」を示し、これを参考に各都道府県地方審議会が改定額を決める。24年春季労使交渉(春闘)で33年ぶりに5%台の賃上げ率を実現しただけに、その勢いがどこまで波及するかが注目される。10日の中央の審議は労使が初めて互いの意見を表明した。

最低賃金と引き上げ率

「最低賃金引き上げへの期待感はかつてなく高い。賃金が上がるという明確なメッセージを社会に発信すべきだ」。こう主張する労働者側に対し、使用者(経営者)側は「社会的な期待感の高まりの中で、審議が引き上げ方向に過熱し、データに基づく冷静な審議が損なわれることを強く懸念する」とけん制。使用者側は厚労省に対しても「隣県との過度な競争意識に警鐘を鳴らしてほしい」と訴えている。

「過度な競争」は23年度の審議を念頭に置いた指摘だ。23年度は中央が示した目安「41円」を上回った地方が24県に上った。結果、全国加重平均の最低賃金(時給)は過去最大の「43円」増の1004円。隣県との競り合いで初めて1000円を突破したとも指摘される。使用者側は、最低賃金引き上げに理解を示しつつ、厳しい企業経営の実態や、不十分な価格転嫁で賃上げ原資を確保できない実情を踏まえた審議を求めている。

岸田文雄首相は30年代半ばまでに最低賃金を1500円とする目標を掲げ、前倒しの実現を目指す。だが、それには23年度を上回る賃上げを継続する必要がある。中小企業による人材確保への「防衛的賃上げ」にも限界があり、「金利のある世界」となれば収益はさらに悪化する。

とはいえ、日本の平均給与は経済協力開発機構(OECD)加盟の38カ国中25位(22年)にとどまる。非正規雇用などの処遇改善と同時に、外国人に選ばれる日本にする上でも最低賃金の引き上げを進める必要がある。

適正な価格転嫁の実現はもとより、中小企業も政府の支援を受けつつ、生産性の向上や新たな価値創出への自助努力が求められる。中小企業の「稼ぐ力」をいかに引き上げるかが問われており、最低賃金についても「額ありき」ではない丁寧な議論が求められる。

日刊工業新聞 2024年7月17日の記事を一部抜粋

編集部のおすすめ