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AIベンチャー投資過熱、データと機械学習をサービスに埋め込めるか


AIサービスの外販


 イタンジは、このAI技術を不動産管理会社にも提供している。管理会社には仲介会社から部屋の空き状況を確認するための電話が毎日かかってくる。繁忙期はアルバイトを雇い、無休で対応する。ただ作業はオペレーターがデータベース(DB)を確認して応えているだけだ。仲介会社の社員が検索して確認すればすむ。伊藤社長「AIを導入した管理会社は作業量を7割削減できた。問題の本質は仲介会社が管理会社のDBを信用していないこと。とにかく電話をかけて安心してしまう。次はDBの更新作業をAI化したい」と展望する。

 UBICは弁護士支援や不正監査、特許評価などのサービズを手がける。コア技術のテキスト解析AIで裁判用の重要書類や、談合などの不審なメールを仕分けする。ポイントはAIで仕事のすべてを完結させない点だ。どのみちAIは責任をとれない。
 AIは専門家の判断を基に重要さや不審さの指標を作り、大量の書類やメールのランキングをつくる。100万件の文章から1万件の重要な文章を探す場合、人間はランク上位から調べていけば良い。すべてを調べる必要がなくなり、大幅にコスト削減できる。AIに判断させるのではなく、AIは専門家の暗黙知を指標に換えてデータを分類する。

 武田秀樹執行役員最高技術責任者(CTO)は「現場で試して失敗したことがない」と自信をみせる。適用分野をアパレルや銀行などに拡大中だ。ただ0・001%のデータを見つける仕事と、66%のデータを仕分ける仕事では要求精度や費用対効果が大きく変わる。「AIに合わせて顧客の業務をうまく切り取ることが重要。この2年間、現場に入って作業分析を重ねてきた」という。データの流れと専門家の判断ポイントをAIに合わせて整え、人間とAIのトータルで判断精度が向上し続ける循環をつくる。「まずAIは万能という勘違いを解くところから始め、ときには顧客の業務フローを再構築する。導入コンサルが当社の要。育成してきた人材はコピーできない」と説明する。

 AIサービスは現在、「仕事」ではなく「作業」単位のAI化が中心だ。サービスの標準化やパッケージ化はまだ道半ば。現場に深く入り込まないと、業務フローにデータの流れやAIを埋め込めない。サービスフローとデータフローのインテグレーションが、AIの命運を握る。
日刊工業新聞2016年4月5日 深層断面に一部加筆
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
ロボットもAIもインテグレーションが実用化の壁になっています。まだ「職業」や「仕事」の単位でロボット化・AI化できる仕事は少なく、「作業」の単位で社会実装が進んでいるためです。サービス事業者が自社でAI化を進めれば、業務改革への現場の反発も抑えられるためスムーズだそうです。サービス系VBは、その機動力も相まってとても早いです。一方、AIを売るのはインテグレーターや導入コンサルの業務フローの切り取り方次第です。「企業」ではなく「作業」のレベルで顧客を理解しないといけません。AI開発はハードウエア系に比べてコストはかかりません。ですが億単位の投資を集めても、優秀なAIエンジニアと導入コンサルの確保は簡単ではないようです。AIサービスのカテゴリーが確立してしまうと、ITサービス大手が飲み込もうとするため悠長なことはできません。 (日刊工業新聞編集局科学技術部・小寺貴之)

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