社員が制作、取引先に紹介も…個性豊かな中小の「サステナ報告書」
6月の株主総会シーズンに入ると、持続可能な社会の実現に向けた取り組みを伝える「サステナビリティー報告書」の発行が本格化する。上場企業の多くが株主や金融機関、取引先に報告書を配布しているが、中小企業の制作も少なくない。社員が構成を練り、各部署が手分けをして取材や編集する中小企業が多く、上場企業とは違った個性が報告書に現れる。上場していなくても、報告書を社外への情報発信に活用している。(編集委員・松木喬)
二幸HD 部門長、思いを執筆/融資の提案、求人に効果
建物清掃などのビルメンテナンス業、二幸ホールディングス(HD、東京都新宿区)は2023年、初めて「サステナビリティ報告書」を発刊した。きっかけは持続可能な開発目標(SDGs)活動だった。渡部篤執行役員は「SDGs達成に貢献しようとしても、事業との関わりが分かりにくい。分からないのに推進するのは辛い。それなら、活動を見えるようにしようと報告書を考えた」という。
22年春から構想を練り、部門長にSDGs活動の目標や思いを執筆してもらうことにした。社外への発信を想定すると「部門長の言葉なら取引先に伝わりやすい」と狙いを説明する。
完成した報告書は90ページを超えたが、3分の2は各部門・支社のページだ。清掃サービスでの環境負荷削減から職場でのパーペーレス推進、獣害対策まで、さまざまな活動が紹介されている。中には5ページを割いた支社もあった。
電子版で発刊すると反響があり、金融機関から融資の提案があった。また、求人にもつながった。SDGs推進部の谷島若菜氏は報告書の存在を知って転職してきた。他社からも内定を受けていたが、報告書の記事で「サステナビリティ委員会を毎月開催しており、経営層に理解がある」と感じたことが決め手だった。
ほかにも社外の関係者からは「清掃業は労働集約型でありながら、人的資本の記述が足りない」と指摘を受けた。6月末発行予定の24年版は研修の実績を掲載し、社外からの期待に応える。編集担当2年目になるSDGs推進部の岡安純子氏は「ある程度は調整するが、各部門の色は消さない」と方針を語る。
リマテックHD 毎年編集チーム、24年間発刊/取引先の信頼獲得
廃棄物処理・リサイクル業のリマテックHD(大阪府岸和田市)は、00年から継続して報告書を発刊している。「環境報告書」からスタートし、現在は「サステナビリティレポート」だ。
00年といえば上場企業の取り組みが増え始めた時期で、中小企業の発行は少数。当時、産業廃棄物の不法投棄が厳罰化された。適切に処理している情報を公開し、取引先から信頼を得る手段として環境報告書は有効と考えた。
24冊の編集の実績があるが、社内に「編集部」はない。毎年、グループ会社から編集長が選ばれ、編集チームを編成する。河本一誠取締役は「グループ内でも知らない拠点がある。持ち回りの編集のおかげで、他部署を知ることができる」と効果を語る。
毎回、編集長の思いが紙面に表れるのも特色だ。21年版では創業者である田中正敏会長のインタビューを掲載した。グループ会社RRTの久永勇社長は「創業者の思いを知らない社員が増えており、原点を示したかった」と意図を語る。社員が3時間かけて取材して執筆した。
上場企業は国際的なガイドラインに従って報告書を制作している。グループ会社レックスの箱田明子氏は「ガイドラインに最低限、合致させるが、オリジナリティーを出す方向性」と語る。上場企業並みに公開データが充実している一方、従業員が多く登場して親しみやすい紙面になっている。リマテックR&Dの新見尚之氏も「社会の流れを理解し、中小企業でも先取りしていることを発信したい」と思いを語る。
完成後は毎年、取引先にも紹介し、商談のきっかけにもしている。24年も新編集長の下、7月には次号の編集作業が始動する。