スパコン研究で熱い夏…ポスト富岳、「2フェーズ」へ二つの問題
日本のスーパーコンピューター研究にとって2024年は熱い夏になる。理化学研究所のスパコン「富岳」後継機の予算要求が控えるためだ。日本はフラッグシップマシンを10年に1台のペースで作ってきた。これでは半導体技術の進化を取り込みにくい。そこで時期をずらして2台分のマシンを開発することが提案されている。予算が増えなければ分割することになり、評価が悪ければ減額もよぎる。予算を預かる文部科学省にとっては正念場になる。(小寺貴之)
「2システムを整備・運用することは可能。最新設備へアップグレードしやすくなり、エネルギー効率も高まる」―。文科省の検討会で理研計算科学研究センター(R―CCS)の松岡聡センター長が2台分の並行開発を訴えると、他の委員から「予算は大丈夫なのか」と声が上がった。松岡センター長は「民間のデータセンター運用技術を活用して施設建設や運用コストを削減する」と説明する。提案が通れば10年に1度というフラッグシップマシンのくびきから解き放たれる。
2システムというアイデアはスパコン研究者の悲願だった。正確には2フェーズとして長年温められてきたアイデアだ。筑波大学の朴泰祐教授・HPCIコンソーシアム前理事長は「半導体の技術は年々進化する。それを取り込む期間が10年とは長過ぎる」と指摘する。半導体の消費電力当たりの計算性能は向上し続け、10年後には陳腐化してしまう。これが5年ごとになれば、その時々の先端技術から確実性の高いものを選べる。1台の運用期間は10年間を維持し、予算を2分割したとしても「全体では性能が上回るはず」(朴教授)と試算する。
問題は予算とランキングだ。理研は開発や運営予算を圧縮するプランを練っているが、コストを半減させるのは難しい。予算が2倍にならないと1台当たりに投入できる予算は目減りする。これでランキングの首位を取れないと「失敗」などとレッテルが貼られる可能性がある。ただスパコンの性能ランキング自体を開発目標とすることは副作用が大きいと指摘されてきた。
朴教授は「後継機が稼働する2030年にランキングの『トップ500』がスパコンの価値を決めるとは思わない」と強調する。トップ500は計算性能の一面を表すが、評価指標への最適化を競っても本質ではない。それでも分かりやすいランキングはプロジェクトの成否を決め、予算配分に直結する。
また5年おきになると国産半導体をスパコンに取り入れやすくなる。スパコン需要は半導体市場の中では大きくはないが、その技術が国のフラッグシップマシンで活躍していれば国としても海外に売り込みやすい。そしてスパコンは高精度科学計算で人工知能(AI)の学習データを作る役割が求められている。日本の競争力の観点からは投資強化が必須と認識されている。
文科省担当官は「財政状況が2フェーズを許せば」という。10年のくびきは予算のくびきでもあった。朴教授は「科学として正しい決断を」と促す。