「残業ゼロ」だけでは理想の職場は実現しない!?
<情報工場 「読学」のススメ#2>『ほとんどの社員が17時に帰る売上10年連続右肩上がりの会社』(岩崎裕美子著)
価値観の共有が社員たちの自発性を育てる
岩崎さんは、「差別化した製品づくり」「分かりやすい広告力」「親切で丁寧なサービス」という「三つのこだわり」と、「業務の棚卸し」「アウトソーシング活用」「ルーティンワークのシステム化」といった「七つの働き方革命」により、長時間労働をしなくても業績を伸ばせるビジネススタイルを確立した。残業はほぼゼロになった。しかし社員たちが「暗い」ことに頭を悩ませることになる。「皆が生き生きと働く職場」という理想とは正反対の状態だった。
なぜそうなってしまったのか。岩崎さんは、自分が「社員たちを認めていなかった」ことに思い至る。何でも自分で決め、社員に仕事を指示していた。本人にそんな意識はなかったそうだが、まるで独裁者のように振る舞っていたのだ。社員は萎縮し、自発性もモチベーションも失っていた。
ランクアップが「強制期」から「自発期」への移行に失敗した理由の一つは、「何のために」が欠けていたことではないだろうか。「何のために」残業のない会社にするのか、岩崎社長はもちろんわかっていただろうが、社員は誰一人として理解していなかったのではないか。岩崎さんが伝えていなかったからだ。「何のために」がわからなければ、自分で判断して動くのは難しい。
岩崎さんはコンサルタントのアドバイスのもと、全社での「価値観の共有」を図ることにした。その価値観とは「挑戦」である。社内のいたるところに張り紙をするなどして「この会社は挑戦する会社だ」ということを徹底的に周知した。すると、新しい提案が出てくるなど、社員が自発的に「挑戦」するようになったという。
岩崎さんも変わった。社員の自主性を重んじ、提案を受け入れるなど、社員の「挑戦」を積極的に支援するようになった。社員たちも、社長の態度が180度変わったことで、見違えるほど明るくなり、生き生きと働くようになったようだ。
もともと岩崎さんが「残業ゼロ」をめざして個々の業務の「棚卸し」をしたり、事務作業をアウトソーシング化したりしたのは、単なる「効率化」のためではなかった。社員たちに「考える仕事」をしてもらいたかったのだ。自発的に考えて、「挑戦」してほしかった。ただ、それを伝えられていなかった。しかし「価値観の共有」を徹底したことで、そんな岩崎社長の「何のために」を、社員全員が理解できるようになったのだ。
もしもランクアップの社員たちが自分で「何のために」に気づいたとしたら、もっと早く「自発期」に移行できたのかもしれない。私たちも、日々の仕事の中で常に「何のために」を考えるようにしてみてはどうだろう? それが各々の主体的な「働き方」を確立することにつながるのではないか。
(文=情報工場「SERENDIP」編集部)
『ほとんどの社員が17時に帰る売上10年連続右肩上がりの会社』
岩崎 裕美子著 クロスメディア・パブリッシング
224p 1,480円(税別)
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