稼ぐ力如実に…業績過去最高のトヨタ、需要のけん引役と力の源泉
2024年3月期決算はトヨタ自動車が高めてきた稼ぐ力が如実に表れた。良好な事業環境を背景に、商品力の強化をはじめ積み上げてきた構造改革が奏功した。25年3月期は「足場固め」と位置付け、開発から生産、販売に至るまで現場の「余力づくり」に力を注ぐ。仕入れ先を含めたサプライチェーン(供給網)にも利益を分配し、未来に向けて好業績を継続的に実現できる体制を再構築する。(名古屋・川口拓洋、編集委員・村上毅)
商品力向上・原価改善が結実
「多くのクルマをお客さまに届けることができた。長年商品を軸とした経営と、積み上げてきた事業基盤が実を結んだ。多くの関係者の努力が多方面に実った」―。8日に都内で会見した佐藤恒治トヨタ社長は過去最高を更新した決算をこう振り返った。
高い収益力を支えるのは、主力のハイブリッド車(HV)など堅調な新車販売と、10年以上継続する商品力向上や原価改善の取り組み。24年3月期は半導体不足など生産抑制要因が解消し、生産が高い水準で推移した。そのため需要が旺盛な北米や欧州、日本で販売台数が伸び、営業増益を実現した。24年3月期の北米の営業利益は前期比7・0倍の5249億円、欧州でも同7・2倍の4079億円と前期を大きく上回った。
需要をけん引するのはトヨタが強みとするHVだ。24年3月期にトヨタの世界販売台数は前期比約100万台増加しているが、「このうちの90万台がHV」と宮崎洋一副社長は話す。特に北米を筆頭に日本、中国の増加率が高い。北米におけるHVの在庫日数は内燃機関車に比べ半分から3分の1程度であり「環境性能だけでなく魅力あるクルマとして認識されている」(宮崎副社長)と要因を語る。
また営業利益の伸びは、商品力の向上による価格の引き上げが全地域で顧客に受け入れられていることも要因の一つにある。24年3月期決算でも「営業面の努力」として、2兆円を計上。台数増や値上げの効果、半導体による生産制限解除によりスポーツ多目的車(SUV)や高級車ブランド「レクサス」など利幅の大きい車を提供できたことが効いている。
一方で、電気自動車(EV)などの販売競争が激化し、「値下げ合戦の様相を呈している」(業界関係者)のが中国だ。トヨタでは「価格競争に巻き込まれない」(宮崎副社長)方針で前期並みを維持。「中国を含むアジア市場のシェアは確保できている」(同)と語る。
このほか、為替の円安による増益要因が6850億円。資材価格高騰などに伴い2650億円の減益影響があったが、過去最高レベルの原価改善効果が3850億円あり、マイナス分を打ち消した。
HVやプラグインハイブリッド車(PHV)などで出た利益を電動化などの新領域に、いかに効率的に振り向けるかも重要な要素だ。過熱とも言える転換への波は収まったものの、注目されるのがEVの販売動向。24年3月期は11万7000台で着地した。25年には17万1000台を予想する。
今期は「足場固め」 人に投資、現場に余力づくり
トヨタの力の源泉は1000万台以上を展開する世界トップの販売基盤と、各地域の販売割合が約10―30%と分散しており、特定の地域で偏りがない点だ。24年3月期もこの強みを発揮し、好業績につなげた。一方で相次ぐ新車種投入や国内1万4500台以上の日当たりの生産台数、電動化をはじめとした新領域への対応などが開発、生産部門などの負荷につながっていた面もある。佐藤社長は「企業経営は長距離走だが、短距離走になっていた」と表現する。
さらなる成長を継続するには現状の体制では限界があるとの課題認識から、25年3月期までの1年間を足場固めに充てる。現場で中長期視点の改善活動ができるための時間や人的資本を生み出し余力づくりを進めるほか、仕入れ先や販売店とともに「人への投資」に取り組む。
まず、トヨタ内部ではこの1年をかけて生産現場だけでなく、開発や管理部門も含め、時間や心理的な安全性の担保を図る。業務における「ムリ」を洗い出し、余力づくりを推進。生産現場では生産性に関する目標を1年間凍結しながら、新たな指標づくりに挑む。佐藤社長は「10年先の働き方を今つくる」とし、安全・品質を徹底する環境を構築する構えだ。電動化など転換期を迎える自動車業界では、多くの業務が挑戦の連続であり、変化や失敗を許容できる体制に再構築する。
25年3月期では人への投資として3800億円を確保。このうち、仕入れ先などに向けた費用としては3000億円を計上する。仕入れ先には、高騰するエネルギー費や材料価格分に加え、新たに職場環境や働き方改善を含めた人への投資分を調達価格に反映できるようにした。販売店にも人への投資として、従業員1人当たり1万円を補助。処遇改善や店舗の環境整備など販売店ごとに働く意欲や競争力を高めることを支援する。
多様な駆動装置の提供強み
カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)への対応が急務となる中、カギとなるのが電動化戦略だ。政府の優遇策を受けて欧州や北米、中国などでEV販売が増加してきたが、価格競争の激化や景気減速に伴い販売が失速。EV大手の米テスラや中国・比亜迪(BYD)などの業績の伸びが鈍化している。
一方、世界規模でHV、PHVの需要が伸長し、トヨタが地域のエネルギー事情に応じたパワートレーン(駆動装置)を提供する「マルチパスウェイ(全方位戦略)」が強みとして際立っている。
24年3月期のトヨタ・レクサスブランドのHVの世界販売台数は前期比32・1%増の359万4000台。PHV、EVなどを合わせた電動車販売台数は385万5000台で全体の37・4%と前期比7・8ポイント上昇した。25年3月期もHVの伸長で電動車販売台数は482万7000台となり全体の46・4%まで高まる見通しだ。
また、マルチパスウェイの具体化とともに、今期重点テーマに掲げるのがソフトウエアを更新することで車の価値を高める「ソフトウエア定義車両(SDV)」の基盤づくりだ。車載基本ソフト(OS)「アリーン」などソフト基盤の開発に注力し、人工知能(AI)関連の投資を拡充していく。インフラや生活に寄り添ったアプリケーション、サービスなどと連携し、「自動車産業が『モビリティ産業』に転換できるように構造改革を促す」(佐藤社長)方針だ。
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