大林組・清水建設・長谷工…「地味で保守的」イメージ打破、ゼネコンがブランディング重点の狙い
ゼネコン各社がPR活動を強化している。リクルート対策や一般的な知名度の獲得、社員の士気向上など、経緯や目的は各社各様だが、ブランディングに対する意識がこれまで以上に高まっている点は共通する。社会貢献度が高い半面、地味で保守的―。そうした業界・企業イメージの打破に向けた取り組みを探ると、現状に対する危機感や改革への意欲、さまざまな成果が見えてきた。(編集委員・古谷一樹)
大林組CM・広告・SNS展開
大林組はブランドビジョン「MAKE BEYOND つくるを拓く」をテーマとしたPRを展開している。俳優を起用したテレビCMを放映しているほか、屋外広告を駅通路に掲示することによって、一般的な知名度の獲得を図っている。
CM放映が始まった2021年は、同社が創業130年目を迎えたタイミング。リブランディングを進めるため、社内でプロジェクトを発足した。社員の一体感の醸成や、人材確保難への対応、オープンイノベーションの推進などを目的にさまざまな検討を行った。
ブランドビジョンの策定後、蓮輪賢治社長がグループ企業を訪問し、その内容や目的を説明して回った。こうした丁寧な取り組みが奏功、「大分浸透してしてきた」(堺雄一郎理事コーポレート・コミュニケーション室長)。
社外での企業イメージの浸透を目指す中では、テレビの視聴時間が少ない若年層を意識し、会員制交流サイト(SNS)を活用した情報発信にも力を注いでいる。フォロワー数の推移にも目を光らせ、他媒体との相乗効果を引き出す考え。
これまでの取り組みを通じて人材の確保や営業面での効果を感じつつも、「ブランドイメージは一朝一夕に確立できない。しっかりと社外に訴えていく」(同)との考え。今後も、長期的な視点に立って地道な活動を続けていく。
清水建設 モノづくりの楽しさ表現
早くからテレビCMを放映している清水建設は、建設業界におけるPR活動の先駆者的存在だ。現在はSNSを活用した広報・宣伝にも積極的に取り組んでおり、さまざまな年齢層へのアプローチを強めている。
「決して悪くはない。ただ薄かった」。日下部勝也コーポレート・コミュニケーション部長は、2000年代初頭に行った企業イメージ調査の分析結果についてこう振り返る。スーパーゼネコン5社の一角を占める同社ですら、一般的な知名度に関しては満足できるレベルではなかったようだ。
「原因は積極的にPRしてこなかったことにある」(日下部部長)と分析し、これを機に戦略を転換。世間一般のイメージアップを図るため、03年に全社員が参加する企業価値の再考活動に乗り出した。08年には現在のコーポレートメッセージ「子どもたちに誇れるしごとを。」を策定。CMもこのコンセプトに基づき制作している。
モノづくりの楽しさを表現した一連のCMの中には、従業員の子どもたちが登場するシリーズがあり、社内での士気向上につながっているという。将来はリクルートでの効果も引き出していく考え。日下部部長は「人材確保は建設業全体のテーマ。広報・宣伝の立場でいかに解消していくかを考えていく」と話している。
長谷工コーポ CMで従業員を主役に
リズミカルなメロディーと覚えやすい歌詞が印象的な長谷工コーポレーションのテレビCM。社名の認知度獲得やブランドイメージの向上、社員のモチベーションアップなどを目的に、13年からシリーズで放送している。
同社は主力事業であるマンションの設計・施工に加えて、管理や修繕、仲介などを手がけている。PR戦略の強化は、こうしたBツーC(対消費者)向けのサービス関連事業の拡大を目指していた時期と重なる。若手社員からの「営業活動でもっと知名度がほしい」という要望に応えた格好だ。
出演しているのはグループ企業から選出された社員。視聴者に親近感を持ってもらう狙いに加えて、「真摯(しんし)にサービスを提供していく企業姿勢を表現するため」(広報部チーフスタッフの岡田糸恵さん)、あえて著名人ではなく、社員を主役に据えている。
実在する社員をモデルとする人形を使ったバージョンを含め、これまで20作品を制作。CM効果はてきめんで、放映以降の調査では、「若年層の認知度が向上しており、エリア別では地方で特に高まった」(同)。
「あのメロディーは当社の財産。できれば継続したい」と岡田さん。他社と一線を画すコンセプトを前面に押し出し、ブランドイメージの一層の浸透を目指す。
戸田建設 「攻め」の姿勢で存在感
戸田建設は昨秋、ブランドスローガン「Build the Culture.人がつくる。人でつくる。」をテーマとするCM放映を開始した。「認知度アップとリクルートが目的」(佐藤洋人広報部長)と話すように、ターゲットの若者を意識しつつ、幅広い年齢層で好感度が高い女優をメーンキャラクターに起用した。
PR強化に乗り出した背景には、準大手ゼネコンならではの微妙な立ち位置がある。リクルート活動では、一般的な知名度でBツーC企業に劣り、同じBツーB(企業間)であっても、より大手の企業に学生の目線が向きやすい。
「もっと存在感を示していく必要がある」(同)。今後さらに人材獲得競争が激しくなることを見越して、攻めの姿勢へと転換した。
CM放映は社内にも大きな変化をもたらした。若手社員からは、これまで放映してきた「建築」編の続編として、「土木」編の制作を要望する声が出ている。大谷清介社長がYouTubeの番組に出演するなど、他の媒体への露出も増やしている。
さまざまな効果を認識しつつ、佐藤部長は「発信した効果が世の中にどう捉えられたかをしっかりリサーチしていく」と強調する。今後はこうした結果を元に内容を充実させ、発信力を磨き上げる考えだ。
西松建設 差別化狙いドラマ作戦
23年から35年ぶりとなるテレビCMをシリーズで展開する西松建設。創業150周年となる24年を見据えて、約3年前から準備を進めてきた。
きっかけは、同社に関する学生の認知度の低さに危機感を募らせたこと。就職希望者を増やすには、知名度アップが必要と判断。加えて、潜在的な顧客獲得というビジネス面の効果も狙った。
まず検討したのが、新たな企業スローガン。「会社の強みは何かを表現するととも、社内のボルテージを上げたい」(管理本部の平山勝基部長)との思いを込めた「まかせられる人が、いる。」を策定し、CMで採用することも決まった。
CMの内容で意識したのが、先行する同業他社との差別化だ。視聴者にインパクトを与え、社名を認知してもらうことを念頭に、真面目過ぎないドラマ仕立てのストーリーや、今後さらに人気が高まりそうな俳優をメーンキャラクターとして採用した。
ターゲットとする若年層の反応は上々。CM視聴が入社のきっかけと話す新入社員がいるほか、就職企業人気ランキングにおける順位が大幅に上昇している。今後は、CM向けに作った動画をYouTubeやSNSでも活用し、「いろいろな方向から攻めていく」(同)ことに加えて、親世代の認知度アップや好感度獲得にも意欲的だ。