日本HPは世界初の試み…法人パソコンで安全強化、ハブリッドワークに照準
情報漏えい防止に重点
パソコン(PC)メーカーはテレワークとオフィスへの出社を組み合わせた働き方「ハイブリッドワーク」の継続を見据え、PCの付加価値を高めている。PCの軽量化やオンライン会議を円滑に行うためのカメラやマイクの性能向上に引き続き努める。中でも、各社が注力するのが安全対策だ。PCの利用には情報漏えいの危険性が伴う。のぞき見の防止のほか、量子コンピューティングを用いたサイバー攻撃から情報を守る製品も出てきた。(阿部未沙子)
国土交通省が3月に発表した「テレワーク人口実態調査」によると、コロナ禍以降の直近1年間のテレワーク実施率は全国で減少傾向だったが、コロナ流行前よりは高水準だと推測した。またコロナ禍を経て、ハイブリッドワークが拡大傾向にあるようだ。
さらに、25年には米マイクロソフトの基本ソフト(OS)「ウィンドウズ10」のサポートが終わる予定。このため、MM総研(東京都港区)はPCの更新需要が25年度に集中し、特に法人向けPCの出荷台数は23年度比48・9%増の1045万台と大幅に増えると推測する。
こうした中、PC各社は法人向けPCの性能を充実してきた。日本HP(東京都港区)は従来、個人向けPCの上位モデルに人工知能(AI)の推論に使うNPU(ニューラルネットワーク・プロセッシング・ユニット)を搭載してきたが、これを法人向けにも拡大する。
さらにハイブリッドワークを支援する観点から、社内以外のあらゆる場所でのPCの利用を想定。安全面での対策を講じてきた。例えばAIを用い、画面をのぞき見されることを防いだり、離席時に画面をロックしたりする。
加えて、日本HPは量子コンピューティングによる攻撃からファームウエアを守る機能を法人向けの一部機種に搭載すると発表。日本HPによると世界初の試みだという。
エンタープライズ営業統括営業戦略部プログラムマネージャーの大津山隆氏は「量子コンピューターはまだ研究の段階にある。ただ(量子コンピューターにより)デジタル署名の仕組みが破られる可能性がある」と危惧。「(破られた場合の)社会的なインパクトは大きい」とした。
他社もハイブリッドワークを意識した安全対策に力を尽くす。例えば、レノボ・ジャパン(東京都千代田区)はAIプロセッサーで顔の向きなどを検知し、画面を暗くすることで、PCの画面を他人から不本意に見られることを防ぐ。
近年では対話のしやすさなどから、出社回帰の潮流がある。ただ、パーソル総合研究所が23年8月に公開した調査では、テレワーク実施者の継続意向は81・9%で過去最高の結果となったようだ。柔軟な働き方を支えるのにPCは欠かせない。PCメーカーは、働き方の選択肢を広げるためのカギを握るといえる。