鉄スクラップ検収作業にAI、正確性担保ともう一つの期待
電炉で鋼材を作るメーカーにとって原材料となる鉄スクラップ。そのスクラップ検収作業で人工知能(AI)の活用が進んでいる。同検収作業は担当者の熟練度が決め手となっている上、人手不足という問題もあり、AIは作業の正確性を担保するのに役立っている。また技能の承継に資する手段としても期待度が高まっている。(山田諒)
能力差を是正・標準化
鉄スクラップ検収には大きく分けて二つの目的がある。業者から持ち込まれたスクラップを見て等級分け(グレーディング)し適切な金額で買い取る「査定」と、スクラップを溶解して鋼材を作る際に品質低下や設備故障などを防ぐために混ざっていてはいけない禁忌物を見つけ出す「検知」だ。
これまで検収は人手に頼らざるを得ない状況が多かった。「査定、検知ともに検収員の熟練度がものを言う世界だった」(電炉メーカー担当者)。査定によって鉄スクラップの買い取り価格が変わってくる。熟練度によってその価格が変わり、電炉メーカーの収益にも直結してしまう。また検知も熟練度によって、きめ細かに禁忌物をさらえるか否かが変わってくるという。スクラップの入ったトラックの荷台を高いところから見て検収作業を行う場合もあり、きめ細かに査定・検知するのは根気のいる作業だった。
また人手不足も大きな問題となっている。「若い世代が、検収員を目指さなくなってきた」(同)。若手がいないため、検収技能の継承にも黄色信号がともりだしている。
こうした課題を解決する切り札として期待されるのがAIを使った検収システムだ。千代田鋼鉄工業は2022年に中国のラモン・サイエンス&テクノロジーのシステムを導入した。導入により検収担当者3人の能力差を是正・標準化し、属人性を排除する。同時に検収技術を次代に継承する取り組みにも貢献していると考えているという。また労働環境の改善にもつながっている。検収担当者は常に屋外作業だったが、システム活用で監視業務に注力できるようになったからだ。
同じく22年に東京製鉄は、EVERSTEEL(エバースチール、東京都文京区、田島圭二郎社長)のシステムを導入し、宇都宮工場(宇都宮市)で本運用を始めた。エバースチールから、システム実験の場として協力を要請されたことがきっかけで実験が始まり、本運用に至ったという。
検収評価の平準化もシステム導入の目的の一つだ。東鉄の購買部門を取り仕切る津田聡一朗総務部長は「どんな時にスクラップの搬入があっても、レベルを変えずに検収することが理想。人だとどうしてもバラつきが出てしまう。また、これまで検収作業は属人的だった。どれだけ人に頼らずにできるかを主眼に置いた」としている。
今年に入り、東鉄は岡山工場(岡山県倉敷市)で、ラモンの鉄スクラップAI検収システムを試験導入。さまざまなシステムを使って、検収作業のさらなる高精度化や省人化を目指す。
画像解析システム開発、日中メーカー競う
電炉メーカーの課題解決や作業性向上などに資するAI検収システム。日本企業と中国企業の製品が日本国内のメーカーから支持されている。
エバースチールは東京大学発のスタートアップだ。同社のシステムはカメラでスクラップを撮影し、AIでその画像データを解析して査定や検知をする。
田島社長は「電炉はとにかく人が足りない業界。また検収作業は担当者のコンディションやセンスでバラつくのが課題だった」と開発の背景を明かす。電炉メーカーに導入する際は、1週間ほど工場に張り付いて学習用のデータを収集。メーカーとやりとりしながら、システムを作り上げていく。
今後はスクラップを混ぜる配合工程で、適切な成分値の鉄を作るために画像データとAIを生かすシステムを開発中。またスクラップを溶解する工程で、適切な電力量をAIで予測するシステムの構築も目指している。田島社長は「配合も溶解も、これまで人の熟練度が頼りだった工程。AIの活用を目指したい」としている。
中国・ラモンのシステムも、スクラップの画像データをAIで解析するものだ。画像データを1枚ずつ即時的に分析する。同社の日本総代理店を務めるファインズ(東京都中央区、文成彬社長)の担当者は「スクラップの荷下ろし作業に影響しない速度で解析できる」と強調する。
検収員の通常の検収結果のみから、ラモンの専門チームで学習データの解析が可能という初期導入の簡単さなどを武器に、国内の電炉メーカーへ提案。「具体的な受注目標は非公表。ただ、国内のほとんどのメーカーを訪問し、半数以上に提案書を出している」(担当者)。
これからもエバースチール、ラモンの2社がAI検収システムの受注を目指し、しのぎを削る構図が続きそうだ。
インタビュー
汎用化・特注対応に注力
EVERSTEEL社長・田島圭二郎氏―AIによる鉄スクラップ検収システムの開発のきっかけは。
「もともと大学で鉄リサイクルに関する研究をしていたのが端緒だ。鉄スクラップを再利用する上でどんな不純物があり、どんな悪影響があるのかを特定すること、そもそも不純物を混在させないことは可能かを考え、19年ごろに研究に取り組み始めた」―鉄鋼メーカーからの評価は。
「これまで検収では担当者の目がものを言っていたが、担当者は各メーカーでも数人程度と少ない。システムを使ったメーカーからは『人と同レベルの検収をAIでできるのか』と驚かれる。またスクラップの撮影データが残るため、完成品からのトレーサビリティーも確保できる。またメーカーとスクラップ業者で多かった買取額に関するもめ事も減らせている」―受注目標は。
「25年は12工場の受注が目標だ。不純物の検知や査定を基本機能とした汎用化システムに注力していく。また各メーカーのニーズに応じたカスタマイズにも力を入れていき、より求められるシステムにしたい」―高炉メーカーの電炉化の動きもあります。
「この動きは当社には追い風になりそうだ。高炉メーカーは、かなりハイレベルなスクラップ検収を求めるものと想像できるからだ」―検収以外でAIを生かす考えは。
「検収の後工程でもスクラップの撮影データを共有し、AIで解析することで高品質な鋼材を製造できるシステムの開発を構想している」
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