水素100%専焼、三菱重工が早期社会実装へ実証
三菱重工業は高砂製作所(兵庫県高砂市)の「高砂水素パーク」で、中型ガスタービン(出力4万キロワット級)による水素100%専焼と、水素を精製する固体酸化物形セル(SOEC)の実証を3月末から始める。今秋には最新鋭の大型ガスタービン(同45万キロワット級)でも水素50%の混焼を実証する予定。2030年に100%専焼の実用化を目指す。(いわき・駒橋徐)
高砂製作所は中・大型ガスタービンを製造する。機能や長期信頼性を確認する実証拠点を備え、20年に実証設備複合サイクル発電所(第二T地点)が稼働。タービン入り口温度1650度CのJAC形ガスタービン(同45万キロワット級)の実証を進めている。
この発電実証設備と水素の製造・貯蔵・供給が一体化した高砂水素パークが23年に本格稼働し、水素の100%専焼に向け、まず同4万キロワット級ガスタービンで実証する。
燃焼器はドライ式低窒素酸化物(NOx)技術のマルチクラスター器を開発、初めて導入する。200以上の微細孔から空気と水素を吹き出し、短距離で混合燃焼する。水素の30%混焼では23年末に、大型ガスタービンを予混合燃焼器で実証した。予混合ノズルで燃料と空気を混合燃焼するドライ式は、水素の燃焼速度が速く、火炎が逆火する課題がある。このため三菱重工は予混合燃焼では水素混焼は50%程度までとみている。
中型ガスタービンで初の水素100%専焼の実証は、マルチクラスター燃焼器を採用する。大型ガスタービンでは今秋にもまず水素50%混焼を予混合燃焼器で実証する計画。「100%専焼は25年度以降にマルチクラスター燃焼器が開発完了し、30年までに実用化する」(田中克則シニアフェローエナジードメインGTCC事業部副事業部長兼高砂製作所長)とする。
また日立工場勝田地区(茨城県ひたちなか市)のアンモニア燃焼試験設備で中型ガスタービンの直接燃焼方式を開発。高濃度燃焼・希薄燃焼の2段燃焼で23年に専焼を実現した。現在、実機による実証に向けサイトを検討中。アンモニアから水素を分離し燃焼する方式は30年以降に大型ガスタービンで実用化を目指す。
高砂水素パークでは4方式の水素製造装置も実証する。アルカリ水電解装置は海外からの導入技術で実用化。長崎カーボンニュートラルパーク(長崎市)で開発するSOECは、大型の400キロワット装置で3月末から実証に入る。アニオン交換膜(AEM)水電解は、イオンを通しやすい膜を採用した小型装置を導入する予定。このほかメタンの熱分解を通じた水素製造(ターコイズ水素)にも取り組む。天然ガスの熱で水素と固体炭素に分解し、水素を利用する。自社開発の実証機を水素パークに設置し、26年の実装を目指す。
水素パークでは製造した水素を3万9000立方メートル貯蔵しているが、大型ガスタービン発電での水素混焼率引き上げに伴って水素供給量が増えるため、今秋には貯蔵量を3倍に拡大する。「カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)を実現する最先端技術実証基地として、水素製造、貯蔵、燃焼技術のトータルで性能、コスト面も含め進化させていく」(田中所長)方針。国内外の市場に水素、アンモニア燃焼の中・大型ガスタービン発電機の展開を狙う。