最短10日間、最少1個で精密鋳造品が手に。「デジタルキャスト」が目指す新しいモノづくりとは
普及フェーズに入った3次元(3D)プリンター。数万円で手に入る入門機や、数メートルにのぼる巨大品を造形できる機種も登場。使える素材も樹脂から金属へと広がっており、進化は著しい。企業にとっては、現実のモノづくりにどう組み込んで活用するかを競う時代に入ったといえるだろう。
「デジタルキャスト」は、この3Dプリンターに、以前からあるロストワックス鋳造法を組み合わせることで、営業日ベースで最短10日間の短納期、かつ最少1個からの精密鋳造品を提供可能にしたサービスだ。
鋳物の材質は量産品と同等、補修部品にも
デジタルキャストで作れる材質はロストワックス鋳造と同様で、ステンレスを含む鉄系、アルミ系、銅系と国内随一を誇る100種類以上にも及ぶ。量産品とほぼ同じ精度・材質のものが短納期かつ1個から手に入るため、試作品の段階であっても強度や機能など容易にテストできる。製品開発の現場にはうれしい。
また、工場で古い設備が壊れて、設備の製造元にも部品や図面が残ってないような場合にも、このサービスは役立つ。CTスキャンや画像測定機などを使って壊れた部品を測定、3Dデータにしてデジタルキャストで鋳造すれば、ほぼそのまま使える金属部品の複製が1個単位で手に入る。一刻も早く設備修繕し、通常稼働に持っていきたい生産担当者にとっても救世主になる可能性を秘めている。
精密鋳造の世界に「第四次産業革命」到来!?
このデジタルキャスト。ベースとなったロストワックス鋳造は、高精度な部品を鋳造する「精密鋳造」の標準的な製法。
作りたいものの形をあらかじめロウで成形しておき、周りにセラミックス粉末をコーティングし、炉で加熱すると内部のロウが溶け落ちて鋳型ができる。この鋳型に溶かした金属を流し込んで固め、鋳造品を作る。最初に作るロウ模型を金型で成形することで、高精度で量産性の高い製法となっている。
これに対しデジタルキャストでは、ロウの代わりに3Dプリンターで造形した樹脂模型を使うのが最大の特徴。造形したモデルには、ロストワックス同様に周りにセラミックス粉末をコーティングして炉で焼成する。ロウは溶けて流れ落ちるが、樹脂は燃えて気化するため、やはり内部は空洞となって鋳型として使える。
3Dプリンターの進化で、表面性状がきれいな樹脂模型を造形できるようになってきたことや、蓄積した技術で製造工程を最適化したことで鋳造品のベースに適用できるようになった。対応サイズも大型化してきており、現在のところ最大目安500ミリメートル角の品までこの方式で鋳造できるという。
短納期も特徴だ。ロストワックスでは何もないところから鋳造品が形となって出てくるまで、最短でも2カ月かかる。かたやデジタルキャストの納期は最短10日。その秘密は金型を使わないこと。3Dプリンターで樹脂模型を作りそれをロウ模型と見立て鋳造工程に使用することで実現した。
ただ、一定数以上の鋳物が必要な場合は、金型を起こす方が効率的。20から30個以上が必要な場合は従来通り金型製作しロストワックスで鋳造する方がコストメリットが出る場合もある。逆にいうと、1ロット20個以上ないと、金型費用を償却する上からも精密鋳造品は発注しにくい状況だった。鋳造メーカーの状況によっては、20個のような小ロット品の注文さえ、常に短納期で受けてくれるとは限らない。
2011年にドイツで提唱され、日本でも大いに注目を集めた次世代製造業のビジョン、インダストリー4.0(第四次産業革命)。目指す方向性としてあげられたのが、多様化する顧客ニーズに対応し、最小ロット1個のモノづくりを大量生産のコストと品質で行える工場の姿だった。この、いわゆる「マス・カスタマイゼーション」の世界が、デジタルキャストによって使える形で現実のものになろうとしている。
開発元は、独立系ロストワックス鋳造大手
デジタルキャストを開発したのは、広島県福山市に本社を置くキャステム。ロストワックス鋳造と金属粉末射出成形(MIM)を事業の二本柱としており、創業は1970年(昭和45年)。従業員数300人(2022年4月現在)、売上高は93億円(グループ合計、2022年3月期末)。大手製造業者のグループ会社が多いロストワックス業界だが、同社は独立系ながら創業50年強にして業界トップに肉薄するまで成長してきた。
3Dプリンターの活用にも積極的に取り組んできた。2017年にはすべての営業所に3Dプリンターを設置し営業マンでも操作できるようにした。ロストワックスの案件相談が入った場合、営業マンが樹脂模型を造形し持参することで、より具体的なイメージを持ちながら打ち合わせできるようにした。
製造部門への適用は、実は3Dプリンターが普及する前段階からある光造形装置の時代から研究してきたという。これまで約30台の3Dプリンターを購入し、鋳造品の模型として使えるかどうかを試してきた。今は表面のきれいさやコスト、大きさなどに応じて2種類の3Dプリンターを使い分けている。
2月末、国内で初めて導入した新しい3Dプリンターは、現在の主流機の約5倍という超高速、なおかつ薄肉の成形が可能。造形サイズも大きく、モデルを多数個取りするなどの工夫により、3Dプリンターの弱点といわれてきた造形スピードの遅さという問題を解決できそうだ。
キャステムの戸田有紀専務に聞いた
デジタルキャストの普及に奔走する、キャステム代表取締役専務執行役員の戸田有紀さんに聞いた。
―デジタルキャストをどういう風に使ってほしいですか。
「最小ロット1個の精密鋳造品が容易に手に入り、なおかつ今まででは作れなかったような形状のものがお届けできるということで、日本のメーカーの開発が活発化し、日本企業が強くなっていくことを期待している」
―この製法はまだまだ知られていません。
「まずは試していただければ、コスト面も含めて選択肢に必ず入れていただけると自信を持っている。コストで言うと、金型を起こさないので初期コストは確実に安い。金型は一度作ると資産になることもあって社内で決裁を通すのが難しいと聞く。金型を保管する手間やコストを考えると、量産を終了した製品の保守用部品は金型を廃棄し、デジタルキャストで都度製造するように移管するやり方もある」
―鋳造業はエネルギーコスト高騰や後継者不足で厳しい経営環境が続いていますが。
「当社の新規事業部では、漫画『キン肉マン』の『ロビンマスク』の実物大モデルのように、各方面と提携しておもしろい製品づくりに取り組んでいる。そのこともあってか入社希望の学生さんに多数応募いただいており、人材には悩んでいない。今回、この新しい鋳造法には大きな投資をしているし、『DIGITALCAST株式会社』という新会社を設立し本社製造部門の人員を全員転籍させるなど、相当の力のいれ具合と覚悟を持って取り組んでいる。デジタルキャストのような新しい技術で、自社の新製品開発も加速すると期待している」
デジタルキャストWEBサイト:https://www.castem.co.jp/technology/digital_cast/
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