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電動バイクの電池交換ビジネス、日系スタートアップに見る脱炭素ビジネスのヒント

電動バイクの電池交換ビジネス、日系スタートアップに見る脱炭素ビジネスのヒント

電動バイクで営業するバイクタクシー

日本人がインドネシアで設立したスタートアップのサントモ・グリーン・パワー・マネジメント(GPM)が、電動バイクのバッテリー交換サービスを始めた。インドネシアはバイクの電動化が進み、バッテリー交換もビジネスとして成立する。脱炭素よりも、貧困層の生活を向上させるという社会課題解決の側面からサービスが受け入れられた。日本企業が海外で脱炭素ビジネスを展開するヒントになりそうだ。(編集委員・松木喬)

電動バイクタクシー向け、電池交換サービス展開

サントモGPMは、豊田通商出身の山口智市氏が2016年に設立したサントモ・リソース(東京都千代田区)のグループ企業。サントモ・リソースはインドネシアで再生可能エネルギー事業を展開する。サントモGPMは山口隼太郎氏が社長を務める。智市氏と同姓だが、親族ではない。隼太郎氏は日本企業を辞めてインドネシアに渡った。

サントモGPMがバッテリー交換サービスを始めたのは、同国東部のマカッサル市。人口150万人ほどの都市だ。同社はバッテリー交換ステーションをコンビニエンスストアなど56カ所に配置。電動バイクの運転手は充電残量が減るとコンビニに寄ってバイクからバッテリーを抜き、交換ステーションにセットする。代わってステーションから充電済みバッテリーを取り出してバイクにセットする。

バイクで人を運ぶ「バイクタクシー」の運転手が交換サービスの利用者だ。サントモGPMは、運転手と乗客をマッチングする配車アプリ事業者と組んで交換サービス事業を展開する。

インドネシアでバッテリー交換事業を展開するサントモGPMの山口隼太郎社長

交換サービスを開始できた要因はいくつもある。まずバイクの市場が大きく、国民の4割に当たる1億2000万人がバイク保有者と言われる。そして「バイクタクシーがオフィシャルに存在する」(山口社長)のも同国ならではだ。日本では自家用車を使って乗客を有償で運ぶ「ライドシェア」の解禁が議論中だが、インドネシアでは誰でもバイクによるタクシー営業ができる。“インドネシア版ウーバー”と呼ばれるような大手配車アプリ事業者「ゴジェック」だけでもマカッサルで4000人の運転手が登録している。

バイクの電動化も日本より先行する。現地メーカーが電動バイクを量産しており、ガソリン車と同等価格の車種も珍しくない。インドネシア政府はガソリン料金を抑制するため補助金を年600兆ルピア(6兆円)以上も投じている。電動化が進めば補助金が減るため、政府も電動化を後押しする。

収入アップ後押し、貧困層の生活向上に貢献

また、バッテリー交換サービスは貧しいバイク運転手の生活を支える。ガソリン代や食事代などを払うと運転種の手元に1日の収入は残らない。交換サービスは走行距離に応じて利用料を徴収するが、ガソリン代よりも安いという。バッテリー交換によって充電を省けるため1日の営業時間が延び、運転手は収入アップが期待できる。

サントモGPMは現地バイクメーカーと組み、交換サービスのために200台の電動バイクを販売した。購入資金がない人には、電動バイクをレンタルしている。貧しい人でもタクシー営業によってすぐに生計手段を得られる。これまでに123台を貸し出した。

今後、脱炭素化が交換サービス事業の追い風となりそうだ。サントモGPMが組む配車アプリ事業者は上場企業であり、社会から気候変動対策が要請されている。再生エネで充電できるようになれば、配車事業の温室効果ガス排出量を減らせて要請に応えられる。

日系スタートアップのサントモGPMにとっては、配車アプリ事業者や電動バイクメーカーと提携できたことが大きい。だが、すぐに胸襟を開いてはくれなかった。「初めは門前払いされた。自分たちでリスクを取る覚悟を持って交渉した」(山口社長)ことで連携ができた。「決まるとスピードが違う」と勢いを感じる。

市場性やニーズを見極め、覚悟とスピード感を持って臨めば、途上国でも新しい脱炭素ビジネスを生み出す可能性は高い。

日刊工業新聞 2024年03月01日

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