【ディープテックを追え】核融合発電に不可欠…希少金属を安く省エネで精錬
究極のエネルギーとして期待される「核融合発電」に関連するスタートアップが続々と立ち上がっている。量子科学技術研究開発機(QST)発スタートアップのMiRESSO(ミレッソ、青森県三沢市、中道勝最高経営責任者〈CEO〉)もその一社。核融合発電の安定運転に不可欠な希少金属を従来よりも安価かつ省エネルギーで精錬する。2030年代の核融合発電実現に向け、技術開発を進める。
ミレッソが対象にするのが核融合炉の連続運転で重要な役割を担う「ベリリウム」という希少金属だ。核融合反応では、重水素と三重水素(トリチウム)を使い、中性子とヘリウムが作られる。この際、中性子はリチウムと反応させてトリチウムを作る。自然界にはトリチウムがほとんど存在しないため、核融合炉自身で作る必要がある。
一方、一つの中性子からは一つのトリチウムしか作れない。そこで切れ目なくトリチウムを作るため、商用の核融合炉はベリリウムを使い中性子を増やす。ベリリウムに中性子をぶつけると、一つの中性子が二つに増える。この中性子を使い、トリチウムを安定的に作れるようになる。
ただ、この過程を構築する上で課題は多い。一つが生産コストだ。ベリリウムは原材料の鉱石を2000度Cで融解するなどして精製するため、高コストになってしまう。そのため年間の生産量が300トンと少ない。核融合炉一基には500トンのベリリウムが必要とされ、現状の生産量では足りない。また、上位3社が市場シェアの90%を占め、寡占市場である点も高コストの要因になっている。
ミレッソは塩基とマイクロ波による加熱を使い、300度Cかつ常圧でベリリウムを精製する。従来の高温での精製プロセスを回避し、より低コストで精製する。
すでにベリリウム鉱石の調達にもメドを付けている。豪州のリチウム鉱山から副産物であるベリリウム鉱石を調達する計画だ。中道CEOは「ベリリウム精製は寡占市場だ。省エネ性を押し出して、差別化を図りたい」と話す。
事業化時期のターゲットは核融合スタートアップの多くが発電実証を目指す30年代だ。核融合発電では、大量のベリリウムを使う。ミレッソは27年にベリリウム精製のパイロットプラントを稼働させ、30年に年産100トンの量産を目指す。国のスタートアップ支援制度「中小企業技術革新制度(日本版SBIR)」に採択されており、最大20億円の助成を受けて開発する。