トヨタが2%出資…TSMC熊本工場の際立ってきた役割
台湾積体電路製造(TSMC)は、熊本県に半導体生産の第2工場を建設し、2027年末までに稼働する。半導体工場を運営するTSMC子会社のJASM(熊本県菊陽町)には、新たにトヨタ自動車が2%を出資する。自動車業界は、21年からの半導体供給不足で深刻な影響を受けてきた。トヨタがJASMに加わるのは、電動化やソフトウエア定義車両(SDV)といった将来の競争のカギとなる半導体調達を安定させる、足場固めの意味合いがある。
TSMCの熊本工場は、24年内に稼働する第1工場と第2工場を合わせた生産能力が12インチウエハー換算で月10万枚以上。TSMC、ソニーセミコンダクタソリューションズ(神奈川県厚木市)、デンソーも追加出資し、2工場の総投資額は200億ドル(約2兆9600億円)を超える。回路線幅40ナノメートル(ナノは10億分の1)から国内最先端となる同6ナノメートルの高機能半導体までを生産し、自動車やイメージセンサー、高機能コンピューターなどの用途に供給する。
今回、トヨタがJASMに加わることで、TSMC熊本工場には車載用半導体生産の役割がより際立ってきた。自動車各社は23年に半導体の供給が回復したこともあって生産と販売が回復。トヨタも24年3月期は過去最高業績となる見通しだ。
ただ、これまでの生産の遅れを挽回するために工場やサプライヤーには大きな負担がかかっており、宮崎洋一トヨタ副社長は「正しい仕事のやり方を見つめ直す時間が必要だ。今だからこそ身をかがめ、長距離走に勝てるように巡航速度を見つめ直したい」とし、工場稼働や開発体制などを見直す考えを示す。
自動車業界では今後、電気自動車(EV)などの電動化に加え、ソフトウエアで車の価値を高めるSDVといった領域で競争が激化すると見込まれており、高機能な車載半導体の需要はさらに高まる。足元ではEV需要の伸びが鈍化する傾向も表れているが、トヨタはその中でも米国でEV生産への追加投資を決めるなど、中長期の目線から着実に種まきを続けている。JASMへの出資も、将来の競争のカギを握る半導体供給網を強化する足場固めと見ることができる。
国内完成車メーカーではホンダも、安定調達や将来の車の競争力を磨く目的でTSMCや独インフィニオン・テクノロジーズと戦略的協業関係を結んでいる。将来の競争に向けた車載半導体の安定調達は各社共通の課題。米中対立が深まる中で経済安全保障も考慮した供給網の強靱(きょうじん)化が必要な状況となっており、さらなる半導体工場の国内投資が出てくる可能性もある。
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