水素インフラを狙え!鉄鋼各社の開発最前線
低コスト化や新しい製品化の動き広がる
模擬水素ステーションで開発スピード上げる
「ユーザーの水素ステーションを観察していては開発が間に合わない。加速試験を行えるのも大きい」。神戸製鋼所営業企画部水素・燃料電池推進プロジェクトの三浦真一主任部員は、社内に新設する「水素ステーション総合テストセンター」の意義を力説する。
水素圧縮機など主要機器ユニットを製造する同社は、高砂製作所(兵庫県高砂市)内に模擬の水素ステーションを置き、主に「実環境の中で負荷試験を行い、圧縮機の中心部品などの耐久性を調べる」(三浦主任部員)予定だ。
当面は燃料電池車の台数が少なく、商用ステーションの稼働率も低くならざるを得ない。耐久性などをより長期的に観測し、コスト削減にもつなげるには自前の模擬装置が欠かせないという。
さらに、複数の企業・団体で組織する技術研究組合の実証用ステーションが相次いで商用化されたため、簡単に利用できなくなったこともある。「メンテナンスの訓練も必要。ユーザーの装置ではできないこともある」(同)として模擬ステーションを幅広く有効活用する方針だ。
鋼製ライナーと炭素繊維の複合蓄圧容器を試作
一方、JFEスチールは鋼製ライナー(容器の内側部)と炭素繊維の複合蓄圧容器の試作品を、第1弾の容量3リットルから一気に40リットルに引き上げた。2018年の市場投入に向け、さらに一歩踏み出した格好だ。
比較的安価な低合金鋼のシームレス鋼管に三菱レイヨンの炭素繊維を巻き付けて強度を出す。その厚さは5ミリメートル程度で、下側のライナーが透けて見えるほど薄い。
「(すでに実用化されている)アルミニウム合金ライナーに比べると、5分の1くらいで済む」(スチール研究所の長尾彰英主任研究員)ため、高価な炭素繊維の使用量を減らせ、コストを大幅に削減できる。「次のターゲットは容量100―200リットル」(同)と、2年後の実用化を見据える。
日本仕様の技術を磨く
また、新日鉄住金エンジニアリングの100%子会社、日鉄住金パイプライン&エンジニアリング(東京都品川区)は東京・潮見に初の商用ステーションを建設した。2年前に提携した米エアープロダクツの技術を導入しており、将来の規制緩和を見据え、米国で実用化されているセルフ式ディスペンサーの国産化も検討している。
政府の水素・燃料電池戦略ロードマップでは、25年ごろまでにステーションの整備・運用費を欧米並みまで下げることが掲げられた。「規制の違いで米国からそのまま持ってこられない」(岡本隆志水素ステーション推進室長)こともあり、日本仕様に合わせる技術を磨いていく。
日刊工業新聞2016年3月17/18日素材面