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AI研究を起点に起きている科学技術政策の変化

AI研究を起点に起きている科学技術政策の変化

文科省は若手研究者をAI分野に誘導する政策を推進する

人工知能(AI)研究を起点として科学技術政策に変化が起きている。文部科学省は3課が連携して政策パッケージを設計した。研究開発事業と人材育成事業を組み合わせ、政策総動員でAI研究を加速させる。また2023年度補正予算では研究者の人件費上乗せ分を措置する。補正予算は当初予算の設備投資の前倒しという既成概念を覆した。今後、半導体や量子などの国の重点分野では給与面から人材の流動を促せるようになる。

「大学若手研究者 給与700万円のイメージ」

「省内ではAI3兄弟と呼ばれている。3施策の相乗効果を最大化するために知恵を絞ってきた」と文科省科学技術・学術政策局人材政策課の生田知子課長は振り返る。文科省は23年度補正予算で377億円を措置し、研究開発と人材育成の施策を走らせる。研究振興局の情報参事官と基礎・基盤研究課と学政局人材政策課の3課で政策を練る。ただの棲み分けでなく、相乗効果を狙った。

文科省の科技系部局では補正予算は設備投資の前倒しに使われる。補正予算は人件費や運営費への手当は認められてこなかった。ただ当初予算では人件費を支える運営費交付金を増やせていない。

そしてAIは国の重点分野であるにもかかわらず、人材不足が慢性化している。研究費を積んでも研究者がいない状況だった。そこで複数の機関で兼業する「クロスアポイントメント制度」に上乗せして研究者の給料を増やし、優秀な若手をAI分野に誘導する。

次世代AI人材育成プログラムとして若手に年間1000万円を5年間支給し、自身の年収の半分から当分を人件費として認める。研究者は年収が1・5―2倍になる。対象は博士号を取得して8年以内の若手を想定する。調査では同年齢層の学術界での年収は600万―700万円。つまり1000万円のうち700万円までは人件費に当てられる。

例えば大学と理化学研究所を兼任するクロアポを結ぶ場合は大学から350万円、理研から350万円、AI人材育成の基金から700万円を受け取る。生田課長は「研究は研究でプロジェクトがいくつも走る。優秀な研究者は研究費の確保はできるはず。給与面を支え、海外で帰国を迷っている若手も背中を押せる」と説明する。

民間と比べて見劣りしていた給与面を改善できれば、研究環境との合わせ技で人材を引きつけられる。民間とのクロアポへの給与付加も可能だ。従来のクロアポは給料が増えず、責任だけが実質2倍になると不評だった。研究者不足の分野は多い。この枠組みが多分野に広がるか注目される。(小寺貴之)

日刊工業新聞 2023年12月08日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
補正予算で人件費を出すってどうなのと思いつつ、当初予算で大学への運営費交付金が見事に増えないので、補正予算で作る基金にしか目はないのだろうと思います。こう飲み込んだら気分は晴れやか、ようやく人件費を増やす方法が確立されました。これは研究者にとっては大きなことで、AIに限らず半導体や量子など、国として重点戦略をもっている分野なら横展開できる可能性があります。今回のスキームでどんどん広げるべしと思ってしまいます。こう考えたら気分は暗転、重点戦略のない分野はどうなるんだと思います。基金化したんだからその分は当初予算を削れと言われるんじゃないの。そのときに守れるの。基盤を泣く泣く削ることになるんじゃないの。と考えてしまい、ため息が出てきます。たぶん5年後と10年後、20年後で評価の分かれる施策になるかもしれません。カンフル剤が効いている間に根本的な解決も進めたいところです。

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