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地震で発生…液状化がもたらす被害とそのメカニズム

おすすめ本の抜粋「今日からモノ知りシリーズ トコトンやさしい地盤工学の本」
石川県能登地方での地震では、液状化が発生した。液状化は地震が発生した際に地盤が液体状になる現象のこと。1964年の新潟地震で新潟市内の広い範囲で液状化が発生し、液状化の被害が広く知られるようになった。 『今日からモノ知りシリーズ トコトンやさしい地盤工学の本』(安田進著)から、液状化の被害を構造物の視点から解説した一部を抜粋して掲載する。

建物は沈下し、マンホールは浮き上がる 液状化による構造物の被害

1964年に発生した新潟地震では新潟市の広い範囲で液状化が発生し、多くの建物が沈下・傾斜しました。信濃川に架かっていた橋が落ち、鉄道盛土も崩れるなど、甚大な被害を受けました。また、同じ年に米国で発生したアラスカ地震でも液状化による被害が発生しました。これらの地震により、日米を中心に液状化による被害が広く知られるようになりました。
 新潟地震以降、日本では液状化をもたらす地震が平均して1、2年おきに発生しています。構造物によって、以下の被害が発生することが分かってきました(図)。

イラスト 榊原唯幸

①直接基礎の構造物:地表に建てられた建物やタンクなど種々の構造物は沈下・傾斜します。

②杭基礎の構造物:杭先端地盤が液状化すると沈下します。また、先端は液状化しなくても表層が液状化すると水平方向に大きく変形し、杭自体が破損したり、上部の橋桁が落橋します。

③地中構造物:地中に埋まっているマンホールや防火水槽、下水道管など軽い構造物は浮き上がります。

④岸壁や護岸および背後地盤:背後の地盤が液状化すると岸壁や護岸に加わる土圧が増えます。また基礎下の地盤が液状化すると支持力がなくなります。これらにより岸壁や護岸が海や川に向かって孕み出し、背後の液状化した地盤が水平方向に流動します。そのため、そこに建っている直接基礎の構造物の基礎は引き裂かれ、杭基礎も変形し、埋設管も引っ張られて甚大な被害を受けます。

⑤土構造物:河川堤防やアースダム、鉱さい集積場といった土構造物では地盤の強度やせん断剛性が減少するため、滑ったり沈下もします。

⑥緩やかな傾斜地盤:液状化に伴って地盤全体が流れ出す流動が発生します。そのため、構造物の被害を甚大にします。(「今日からモノ知りシリーズ トコトンやさしい地盤工学の本」より一部抜粋)

<書籍紹介>
様々な土によって構成されている地盤。地形によって地盤は異なり、防災の面からも地形の成り立ちを知ることは重要である。建築時には、工事中に構造物が変形しないよう、建築後には地震や豪雨などの被害を受けないよう設計する必要がある。地盤や液状化の専門家が学問的視点から地盤を捉える。

書名:今日からモノ知りシリーズ トコトンやさしい地盤工学の本
著者名:安田 進
判型:A5判
総頁数:160頁
税込み価格:1,650円

<執筆者>
安田 進(やすだ すすむ)
工学博士、技術士(総合技術監理部門、建設部門)、土木学会特別上級技術者(地盤・基礎)
専門分野:地盤工学、土木工学、地震工学
1948年  広島市生まれ
1975年  東京大学大学院工学系研究科博士課程修了
1975年  基礎地盤コンサルタンツ(株)入社
1986年  九州工業大学工学部 助教授
1994年  東京電機大学 理工学部 教授
2006年  地盤工学会副会長
2012年  土木学会理事
2013年  日本地震工学会会長
2016年  東京電機大学副学長
2018年  同大名誉教授
 <受賞>
1987年 土木学会論文賞
2011年 地盤工学会研究業績賞
2011年 国土交通大臣賞産学官連携功労者表彰
2012年 ガス保安功労者経済産業大臣表彰
2018年 科学技術分野の文部科学大臣表彰(理解増進部門)
2019年 令和元年安全功労者内閣総理大臣表彰
 <主な著書>
『液状化の調査から対策工まで』鹿島出版会、1988年
『土質力学』(共著)オーム社、1997年
『建設技術者を目指す人のための防災工学』(共著)コロナ社、2019年ほか

<販売サイト>
Amazon
Rakuten ブックス
Nikkan BookStore

<目次(一部抜粋)>
第1章 地盤ってなに?
さまざまな土 「地盤を構成する土の種類」/地形により地盤は違う 「山地、丘陵地、台地、低地の地盤の特徴」/川の流れで大地は造られた 「河川沿いの低地の地盤の成り立ち」

第2章 地盤の力学
必要な地盤情報は構造物ごとに違う 「建設時に知っておくべきこと」/粒子と水と空気から成る土 「土粒子、間隙水、間隙空気」/土独特の定義を知ろう 「土の物理量の基本」

第3章 地盤を知るには
地盤内を知る方法 「多種多様な地盤調査」/設計に最も用いられるN値の測り方 「ボーリング孔による詳細な調査 ・ 試験」/開発進むサウンディング 「種々のサウンディング」

第4章 地盤改良と盛土・斜面補強
改良や補強すると土は強くなる 「地盤改良と補強の種類」/軟弱粘土地盤の改良 「圧密沈下への対策」/軟弱粘土地盤でより一層強度を増す方法 「すべりの防止、支持力を増強」

第5章 地盤工学と建設
即時沈下、圧密沈下、支持力を検討 「浅い基礎」/鉛直と水平方向の支持力を検討 「深い基礎」/すべり安定性に影響するのり面勾配 「道路や宅地の盛土」

第6章 地盤災害と対策
浅層地盤で決まる地震の揺れ 「地震の揺れと浅層地盤の関係」/建物は沈下し、マンホールは浮き上がる 「液状化による構造物の被害」/日本で土砂災害が多い理由 「豪雨による土砂災害の種類」

2020年05月05日ニュースイッチ掲載を一部加筆修正

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