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成蹊大、“デジタルものづくり”全教員によるフル指導体制で必修化する狙い

成蹊大、“デジタルものづくり”全教員によるフル指導体制で必修化する狙い

4人程度のグループに分かれ、機械の制御に情報技術を取り入れる

成蹊大学理工学部の機械システム専攻は、情報系の人工知能(AI)やIoT(モノのインターネット)を取り入れた“デジタルものづくり”の実験科目を始めた。複数のプログラミング言語や3次元(3D)プリンター、制御回路の製作などによる小型扇風機の高度化に、2年生が必修科目として取り組む。同専攻の全教員13人によるフル指導体制としたため、講習会を開いて学び合うなど教える側にも新鮮な経験となっている。(編集委員・山本佳世子)

機械系の学びは機械力学、熱力学など4力学が重視され、これまで機械システム専攻で情報系の実験科目はなかった。座学で学んだ内容を確かめる材料の引っ張り試験など、昔ながらのものが多い。グループで一部の学生が手を動かして他は見守るだけ、という傾向もあった。

画像処理やIoTなど情報・デジタル系の要素を融合した研究室はあるが、「触れる学生は一部に限られる。対して必修科目で設計すれば1学年約120人全員が経験する」と酒井孝教授は強調する。成蹊大によると、機械系で情報・デジタル系の科目を必修とするのは珍しい。要素技術を組み合わせたシステムのモノづくりにより、学生は自身の関心や得意領域に気づき、1年後の研究室選びにもプラスだと見る。

取り上げたのは夏場に多くの学生が手にする小型扇風機だ。軽量化の部材をAIデザインと3Dプリンターで作ったり、小型カメラの画像処理から対象者に追従する制御を入れたり、IoTでの遠隔操作を可能にしたり、利用者の快適性評価のデータ解析をしたり。プログラミング言語も複数を用意した。情報系の食わず嫌いをなくし、トライ&エラーを楽しめるエンジニアに―と期待する。

学生からは「難しいところもあるが、自分の力になると感じる」「一人でできないところを皆で議論して解決できる」と前向きな声が聞かれた。

指導側にも刺激が大きい。「各教員が得意の技術要素の授業をするのではなく、小型扇風機の実装という軸に向けてそれぞれの要素を集約させる」(桜田武准教授)形だからだ。2024年度はパソコンのマウスを対象に、さらにレベルアップした実験の企画を進めている。

日刊工業新聞 2023年12月27日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
今の理工学部の機械系なら、学部生でAIやIoTを全員、学んでいるものでしょ?」と、産業界を含む一般社会は思いがちです。ですが、研究は各分野の各テーマを深掘りするものなので、「その専門とマッチするのなら、流行ものも取り入れる教員や研究室が出てくる」だけなのだと気づきました。「全員が学ぶ演習の必修科目」となれば、教育手法として確立された、材料の引っ張り試験や、熱力学の原理を確認する実験などになる、というわけです。産業界の期待と大学の教育プログラムのギャップは、こういった相互理解の不足から生じるのだと感じました。

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