ニュースイッチ

舞台あいさつにデジタルツインコンピューティング…「超歌舞伎」で記者が見たもの

舞台あいさつにデジタルツインコンピューティング…「超歌舞伎」で記者が見たもの

イメージ

情報通信技術(ICT)と古典歌舞伎を融合させた、NTTと松竹による「超歌舞伎」で新たな舞台を観(み)た。私が驚いたのはデジタルツインコンピューティングによる舞台あいさつだ。主演の中村獅童氏本人の日本語に続き、その声の特徴を維持した英語の動画が披露され、外国人観光客をもてなしていた。中韓国語でも可能だという。

これはNTTのクロスリンガル音声合成技術による。数分の本人の日本語音声から、人工知能(AI)が声の特徴(声色や発話リズム)を学び、多言語データベースを活用してモデルを創出する。表情や動作も同様だ。そのモデルのリアリティーは私の想像を大きく上回った。通訳を挟むのはもちろん、本人の努力によるつたない英語の語りと比べストレスがなく、声に感情、表情や手ぶりなど“その人らしさ”が伝わってくる。外国映画の俳優本人の声を基にした、日本語吹き替えも試行中だという。

これは国際的で重要な場面での演説や講演、スタートアップ支援や寄付依頼の説明といった場面で、力を発揮するのではないか。本人が母国語で話し、次いAIによる本人画像が英語などで話す形で、「何をどのように主張しているのか」という内容の本質が、話者の熱意とともに効果的に伝わるだろう。

身近な翻訳ソフトの精度向上をみても、英語はもはや多大な時間と資金をかけて習得する武器でなくなってきた。対して重要なのが“何を表現するのか”だ。これまでも「手段より中身で勝負」と口にしていたが、世の中に出回る情報を集めて整える競争では、人は生成AIにまったく歯が立たない。人間の創造性とは何なのか。それを自問する大変な時代に入っている。

日刊工業新聞 2023年12月18日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
実際とは異なる流ちょうな発話動画は、フェイクととらえられるかもしれません。だからといって距離を置くには、あまりにもったいないと実感しました。AIを含め先端技術は、新しいものとあって危険性をはらんでいます。問題をきちんと把握しながら、活用を探るという社会的な議論が、従来以上に重要になってきたと感じています。

編集部のおすすめ