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100km間で低遅延通信、NTTが分散型DCの国内実証開始

NTTは、ネットワークから端末までを光で結ぶ低遅延通信技術「オールフォトニクス・ネットワーク(APN)」を用いて複数のデータセンター(DC)間をつなぎ、あたかも一つの大型DCとして活用できる分散型DCの実証を国内で始めた。従来の通信網では遅延時間が大きいため、分散型DCの増設範囲は約35キロメートル圏内にとどまっていた。APNを用いて同約70キロメートルまで可能にし、DC建設可能な候補地の拡大につなげる。 

独自の大規模言語モデル(LLM)「tsuzumi(ツヅミ)」の学習用として、神奈川県横須賀市と東京都三鷹市のDC間(約100キロメートル)をAPNで接続した分散型DC環境を構築した。

横須賀市のDCにはツヅミの学習用データベース(DB)があるが、電力供給の問題で近隣に画像処理半導体(GPU)装置を置くDCを設置できなかった。このため、三鷹市のDCのGPUを用いてツヅミの学習を実施。同一DC内での処理に比べて性能低下を0・5%程度に抑えられた。

サーバーなどをクラウド上で提供する日本オラクルの「オラクルクラウド」とNTTグループのDC間をAPNでつなぐ実証も始めた。重要なデータはオンプレミス(自社保有)環境で保有しつつ、必要なデータのみをクラウド上へ適時連携するデータ分析が可能になる。

デジタル社会の到来でDC需要が急増していたが、DC設置に適した都市部の用地は不足している。用地に余裕がある郊外に設置する場合は通信遅延で性能が発揮できなかった。

従来の通信網では光回線の各経由地で光信号から電気信号への変換で生じる遅延が発生していた。NTTが進める次世代光通信基盤の構想「IOWN(アイオン)」の構成要素であるAPNでは、この変換が不要で高速通信が可能。従来は建設が難しかった郊外でも分散型DCを設置できる。DCの郊外誘致と分散が可能となり、エネルギーの地産地消を促せる。

NTTは23年度中に米国や英国でもAPNを用いた分散型DCの試験導入を完了する見込み。APNの普及で世界各地のDC電力消費抑制を目指す。

日刊工業新聞 2023年11月17日

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