中国への家電売却で「TOSHIBA」ブランドは国内に残るのか
文=ジャーナリスト・大河原克行 「SANYO」「NEC」はモデルケースに
シャープとの統合案よりリストラは軽微?
では、美的集団による東芝の白物家電事業買収後のシナリオはどうなるのだろうか。そこには、いくつかの課題が見え隠れする。
ひとつは、東芝のこれまでの白物家電事業の体制がそのまま維持されるのかという点だ。東芝では、2015年度中を目標に、白物家電事業に関わる約1万4600人の国内外の従業員を、約1万2800人に減らす構造改革を実施しており、同時に、首都圏の拠点を現在の6拠点から3拠点に集約するなど、オペレーションの効率化にも取り組んでいるところだ。
だが、主力製品となる洗濯機と冷蔵庫のいずれもが大幅な赤字構造となっていることを考えると、赤字体質からの脱却に向けて、さらなる構造改革の必要性を指摘する声もある。
とはいえ、シャープとの統合案では、重複部門か多いこと、同じ日本市場および東南アジアを主力とする事業構造となっていたため、大規模なリストラが想定されていたのに比べると、再編規模は少なくてすみそうだ。
優秀な技術者の雇用と新卒採用を継続できるか
しかし、継続的に日本の優秀な技術者を雇用し続けることができるのか、さらには永続的な成長に向けて、新卒採用がどれほど維持できるのかといった点は気になるところだ。
2つめには、東芝ブランドが維持されるのかどうか、という点だ。かつての事業売却の例をみると、パナソニックによる三洋電機の買収時には、パナソニックが「SANYO」ブランドを一定期間維持したり、炊飯器の「おどり炊き」や、充電池の「エネループ」などの製品ブランドはそのまま維持するといったことが行われた。
同様に、パナソニックがハイアールに売却した三洋電機の冷蔵庫、洗濯機事業では、製品ブランドである「AQUA」が、日本法人の社名になったり、一定期間に限定して「SANYO」ブランドを使用することが認められる条件が付与されていた。
期間限定でブランド使用が認められるというのが一般的だが、中には、中国レノボが、NECのパソコン事業を買収した例のように、現在でも日本市場に限定してNECブランドを維持したまま製品を投入しているというケースがある。
これは、日本市場におけるNECブランドの強さを理解しているレノボ側が、NECブランドの使用について、強い要請を行ったこと。NECのコンシューマ製品がほかにはないため、ブランドイメージを切り分けて展開できるという理由が背景にある。その効果は大きく、NECは、国内パソコン市場において、現在でもトップシェアを維持している。
美的集団が「TOSHIBA」のブランドを白物家電製品に使うことができるかどうかで、国内のビジネスを左右するのは明らかだ。AQUAは、国内では三洋電機ブランドを使えなかったため、冷蔵庫や洗濯機の国内シェアは三洋電機時代の半分から7割程度にまで落ち込んだ例もある。ブランド使用の交渉についても気になるところだ。
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