日本が世界をけん引、パワーエレクトロニクス最新事情
舟木剛氏(大阪大学大学院 工学研究科電気電子情報工学専攻 教授)
《産業機器におけるパワエレの適用と効果》
世界のエネルギー消費量と人口の推移を統計で見た場合、産業の発展とともに人類のエネルギー消費は増大してきた。
一方、日本国内における最終エネルギー消費と実質GDPの推移で見ると、2013年度のGDPは1973年度の2.5倍となっているが、最終エネルギー消費は1.3倍と日本は健闘しており、中でも産業部門のエネルギー消費はGDPが増えてもほぼ横ばいとなっている。要は乾いた雑巾を絞っている状況にある。
そういった中で”パワーエレクトロニクスとは何か”というと、半導体や回路といったエレクトロニクス、アナログ制御やデジタル制御といった制御工学、さらには回転機や静止器といった電気工学の融合であり、これらの技術をすり合わせたシステム技術である。
ハイブリッドカーで見ると、停止状態から時速100kmまで加速するのに3780kJの運動エネルギーが必要となるが、これはエンジンの効率を考慮すると、カツ丼1杯分の熱量にあたる。加減速を繰り返すだけで、それだけのエネルギーが必要になる。国内のある自動車メーカーではSiCを使ったハイブリッドカーで、燃費を向上させている。
日本の方式のハイブリッドカーはコストが高いため、欧州では”マイルドハイブリッド”として48Vの低圧システムを標準規格にして、環境規制に対応しようとしている。そのほか、新幹線の車両システムにおいても300系以降はVVVFインバータ制御を採用し、電力回生が可能になった。
ただし、パワー半導体だけでなくシステムとして進化してきた経緯がある。駆動システムにおいてもSiC素子と走行風冷却方式の採用で、700系では1車両あたり約58トンの重さだったが、それが47トンになっている。
あまり知られていないが電気需要の多い豪華客船では、推進用と船内サービス用の発電機の共用化を図った電気化が進んでいる。旅客機、産業用機械・ロボット、建設機械など幅広い領域で電動化やハイブリッド化が加速している。
製鉄分野で用いられる圧延機の生産ラインにおいても電動化が進んでいるわけで、産業においてSiCやGaNといったパワーデバイスは省エネ、高機能化、小型軽量化、製品の高品質化、新機能創生などにつながるキーコンポーネントである。
大森達夫氏(三菱電機 開発本部 役員技監)
《三菱電機の次世代パワーエレクトロニクスの開発戦略》
三菱電機の事業は重電、産業メカトロニクス、情報通信、電子デバイス、家庭電器などで構成されており、制御、パワーエレクトロニクスなどを技術基盤とし、“強い事業をより強く”、“新たな強い事業の継続的創出”、“強い事業を核としたソリューション事業の強化”を成長戦略の基本としている。
現在、SiCモジュール、IGBTモジュール、GaN高周波デバイスなどを手がける電子デバイス事業の売上高は2014年度実績ベースで約2384億円。売り上げ全体の5%程度となっている。
材料の研究から始まってデバイスやモジュールの開発などを行っており、顧客からの要望を聞いてそれに対して問題解決策や新しい提案を行うスタイルで研究開発を進めている。自社単独での研究開発には限界もあると考えているので、東京工業大学などを中心に産学連携の取り組みも拍車をかけている。
会社創立100周年にあたる2021年を目標年とする「環境ビジョン2021」において、低炭素社会を実現するために”省エネ”をキーワードに取り組んでおり、CO2を削減した製品づくり・システムづくりを展開している。パワーエレクトロニクスは、電圧・周波数などを変換する半導体・回路技術のことで省エネを実現する技術として注目を集めている。
そうした中、15年6月に小田急電鉄向けのフルSiC適用インバーターで約40%の省エネを実現するなど実績が上がってきた。また世界的な省エネや環境保護の観点からインバーター制御機器の需要拡大が見込める。さらに応用分野に適した高効率の素子が求められている状況にある。
電鉄や電力の分野に加えて、産業用など各アプリケーションに対応した次世代大容量パワー半導体モジュールの開発などで製品ラインアップを強化する。SiC搭載デバイスの事業領域拡大を目的に主要な市場で拡販を狙うほか、改良を重ねて性能の向上を図る。
モノづくり日本会議(事務局=日刊工業新聞社)と国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)は2月5日に大阪市西区の大阪科学技術センターで「先進パワーエレクトロニクスシンポジウム」を開いた。本記事はその基調講演からの抜粋です。
<関連記事>
三菱電機、鉄道車両用SiCインバーターを海外へ
日刊工業新聞2016年3月11日付