最高製造責任者が語るトヨタ生産現場の強さと革新
「創造と継承の融合」でモノづくり革新に挑んでいるトヨタ自動車。現場の意識改革も含め、着実に基盤は整いつつある。同社が描く未来の生産現場とは。最高製造責任者(CPO)である新郷和晃執行役員に聞いた。
―トヨタの生産の強さとは。
「強いのは現場力や経験値だが、そこからゲームチェンジせねばならない時代だ。単に買ってきた機械を並べるのではなく、経験と匠(たくみ)の技術が生かされた、トヨタなりの自動化や革新生産技術を実現したい」
―自動化や省人化は一層進むと見られます。人と機械の関係性はどうなりますか。
「やりにくい仕事や負担の大きい仕事は機械に任せ、人は付加価値の出る仕事に集中させたい。ただ、生産性を高めるイコール全て機械化かというと、そんなに単純ではない。人はフレキシビリティーが出しやすい。一方、大量生産なら機械の方が良い。専用ロボットと人による汎用・混流生産を状況に応じて使い分けていく」
―車体部品を一体成形する「ギガキャスト」の適用方針は。
「投資は高いが量産性は良い。パワートレーン(駆動装置)も一つでバリエーションの少ない電気自動車(EV)で展開しやすいが、強みが生かせるのならEV以外でも構わない。ただ、EVだから全てがそうなるわけではないかもしれない。ギガキャストはフレキシビリティーが弱い。駆動装置が収斂(しゅうれん)した時には向いているが、移行期では既存の汎用ラインの強みが非常に出てくる。移行期の長さは地域や今後の動向で変わるが、我々はどちらが来ても戦える」
―工程を自在に組み替えられる可能性のある自走式ラインは、EV以外にも広く適用できるのでは。
「そう期待している。実現して課題やメリットを見いだし、適した工程や生産量などを見極めたい。合わせて新たな発想で従来の混流生産も強くする。それぞれ進化させながら使い分け、全体の生産性を高めていきたい」
―部品の発注方式なども含めて生産が変わる可能性があります。
「組み立てだけでなくサプライチェーン(供給網)、物流、検査、全て含めてフルスイングでやりたい。まずは工場レイアウトなど基本単位の考え方をクリアにする必要があり、アイデア創出には垣根を超えてやらねばならない。物流や品質管理のメンバー、取引先とも一緒に進めたい」
―革新生産の考え方は、トヨタ生産方式(TPS)のように標準になり得ますか。
「従来の制限や前提は全てリセットした上でやろうと考えている。新たな標準モデルができるようにしたい」
―既存サプライヤーの仕事にも大きく影響します。
「全てがそうなるわけではなく、使い分けだ。選択肢が増えた分、仕事が増える取引先もある。一方、シフトする部品もあるだろう。未来の姿を共有し、必要な技術を提示しながら互いの強みを合わせて、迅速に良いものを作るサイクルを回していきたい」
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