粉塵規制強化は商機…ブレーキメーカーが技術開発アクセルでシェア拡大狙う
欧州委員会が提案した自動車の新たな環境規制「ユーロ7」をめぐり、国内のブレーキメーカー各社が技術開発を加速している。ユーロ7におけるブレーキ粉塵の規制は2025年と35年の2段階で強まる。アドヴィックス(愛知県刈谷市)と日清紡ブレーキ(東京都中央区)は25年規制値をクリアするめどを付け、曙ブレーキ工業も粉塵の少ない摩擦材を開発した。規制強化の動きを商機に、各社は欧州でのシェア拡大を見据える。(名古屋・川口拓洋、同・増田晴香、編集委員・錦織承平)
自動車から排出される大気汚染物質の大部分は排ガスだが、各国の規制や車の電動化により減少傾向にある。一方で相対的に注目されるようになったのがブレーキ摩耗粉だ。ユーロ7では、この摩耗粉を規制している。規制では25年7月から10マイクロメートル(マイクロは100万分の1)の粒子状物質(PM)が1キロメートルにつき7ミリグラム、35年1月からは同3ミリグラムと定める。
こうした規制は欧州が標準化の国際ルールづくりを主導することが多い。ただ、ブレーキ粉塵規制においては、日本や米国などはブレーキパッドに摩耗が少ない「ノンアスベスト(NAO)材」を採用しており、粉塵を抑えるには有利。欧州で主流の「ロースチールパッド」は摩耗が多く、粉塵も多い。アドヴィックス基本ブレーキ事業本部長の水野雅仁執行幹部は「厳しい規制」との認識を示すが、25年規制値は超えられる見込み。
日清紡ブレーキも同規制値をクリアするNAO材を開発済みだ。欧州のロースチール材を手がける子会社を売却してNAO材に事業を絞り、日系メーカーが欧州向けに輸出する車への採用を目指す。
一方で同規制には課題もある。法規と試験方法には未確定な内容もあるため「最新の動向を注視し、適切な対応に努める」(水野アドヴィックス執行幹部)という。国連がブレーキ粉塵の国際試験方法「GTR No・24」を23年7月に発行し、欧州委員会(ユーロ7)でも同方法が使用される見込み。日本自動車技術会が20年に試験方法を制定したが日本とGTRでは異なる点がある。
また、35年規制値に対してはさらなる開発が必要。曙ブレーキ工業は材料技術や機構の改良により、耐摩耗性の向上に取り組んでいる。人工知能(AI)を応用し、短期間での新材料開発に挑む。材料開発の効率化手法であるマテリアルズ・インフォマティクス(MI)を検証中。AIに原材料の物理特性を入力し、要求を満たす原材料の組み合わせを探る。
アドヴィックスも名古屋大学と連携し、AIを活用した次世代ブレーキの開発を加速する。「これまでの知見や技術開発力を最大限発揮しクリアを目指す」(同)という。
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