ニュースイッチ

「シーテック」開幕…日立・三菱電機・東芝などが用意する脱炭素化への答え

「シーテック」開幕…日立・三菱電機・東芝などが用意する脱炭素化への答え

東芝はCu2Oタンデム型太陽電池などを紹介する。EVに搭載すれば無充電走行を実現できる可能性がある

国内外で山積する課題解決への羅針盤になってきた電機・情報通信技術(ICT)の総合展示会「CEATEC(シーテック)2023」が17日、開幕した。会場となる幕張メッセ(千葉市美浜区)では各企業が取り組む最先端の技術やソリューションが紹介される。今年のトレンドの一つが「脱炭素」だ。カーボンニュートラル(CN、温室効果ガス排出量実質ゼロ)が世界的な潮流になる中、各企業はどんな答えを用意するのか。

総力挙げてソリューション開発

産業界が今、総力を挙げて取り組むのが脱炭素関連の技術やソリューションの開発だ。官民が歩調を合わせ、世界のCN実現に貢献する。

脱炭素に求められるソリューションの中で、日立製作所は独自のシミュレーション技術を駆使した脱炭素社会実現に向けたシナリオのあり方を展示する。地方自治体が統合的な視点で施策を決める手助けをする。

電機・電子業界は社会システム全体の脱炭素に貢献する

23年にこの技術で実証した北海道石狩市、帯広市における脱炭素の実現に向けたロードマップ案なども紹介もする。このほか電気自動車(EV)を災害時に給電装置で活用するソリューションも展示する。

三菱電機はプラスチック資源循環のソリューションを展示。家電リサイクルで用いる静電気によるプラスチックの高度選別技術に、最先端のデジタル変革(DX)技術を掛け合わせ、リサイクルの回収率を向上させる取り組みだ。

大日本印刷(DNP)は、パッケージの原材料調達から製造・廃棄までのライフサイクル全体での二酸化炭素(CO2)排出量を可視化し、第三者承認済みの算定結果を提供する取り組みなどを紹介する。

一方、東芝はCO2を化学原料や持続可能な航空機燃料(SAF)などに再生してカーボンリサイクルに貢献するソリューションを披露する。

さらに、EVに搭載すれば太陽光発電により無充電走行へと将来的につながるような、独自開発の低コスト・高効率のタンデム型太陽電池向け透過型亜酸化銅(Cu2O)セルを紹介する。

同じく電池関連では、パナソニックホールディングス(HD)が独自の材料技術やインクジェット塗布工法で発電層をガラス基板上に直接形成した、ガラス建材一体型のペロブスカイト太陽電池を展示する。意匠性が優れるため、「発電するガラス」としてさまざまな建築物への普及を考えている。

太陽誘電は開発したばかりの固体酸化物形燃料電池(SOFC)のセルを出展する。基幹部材の電解質に使うセラミックス系材料の厚みを他社のSOFCの半分以下に薄くし、より低温(600―750度C)で作動可能にした。家庭用燃料電池や燃料電池車(FCV)などで採用を目指すという。

ユニークなところではシチズン電子(山梨県富士吉田市)がワインセラーに搭載できる照明用の発光ダイオード(LED)を展示する。

このほか、レスターエレクトロニクス(東京都港区)は、EVモーターズ・ジャパン(北九州市若松区)のEVなどを出展。EVの取り扱いを通じ、脱炭素社会の実現を目指す。レスターは、EV以外を扱う事業との相乗効果で「より大きな視点でゼロカーボンの実現を進める」とした。

生成AI・メタバース、話題の新技術集う

今回は世界的なブームとなっている生成人工知能(AI)やメタバース(仮想空間)関連の展示も多い。

日立はメタバース空間上に線路や車両を投影し、リモート保守やトレーニングなどに生かす鉄道設備保全の仕組みを紹介する

日立はメタバース空間上に線路や車両を投影し、リモート保守やトレーニングなどに生かす鉄道設備保全の高度化の仕組みを紹介する。人手不足や技能承継などに貢献する。また、画像生成AIも活用しており、実際に撮影した「線路に異常のある写真」と、生成した「正常な線路の画像」を比較し、どの部分に異常があるかなどを認識してもらう。

ソニーグループでは今回、アクセシビリティー(利用のしやすさ)に配慮した製品やサービスなどを展開している。現実世界と仮想世界を融合したクロスリアリティー(XR)の技術として、視覚障がい者など向けに開発した、音を頼りに仮想のボールでキャッチボールのできるユニークな展示をする。視力や体力によらず、遠く離れた人と楽しむことができるという。

TDKはスマートグラス向けフルカラーレーザー光源装置などを出展する

TDKはメガネ型情報端末のスマートグラス向けに、世界最小クラスのフルカラーレーザー光源装置を出展する。仮想世界の画像や映像を目の網膜に直接投影する方式で、目の焦点を変えずに現実世界の風景と仮想世界を同時に認識できる拡張現実(AR)体験を可能にする。

アドバンスト・メディアはAI音声対話アバターを、パソコンやデジタルサイネージなどの多様なデバイスで使えるようにする技術を披露する。生成AIとの連携機能も搭載した。このほか、NECは生成AIでは世界トップ級の日本語性能を持つ軽量な大規模言語モデル(LLM)について紹介する。

JR東など初出展、市場開拓に意欲

初出展する企業の中ではJR東日本の展示が話題を呼びそうだ。今回、鉄道運行と気象・防災に関する情報を同時にリアルタイムに表示し、安全運行に役立てるデジタルツインプラットフォーム(基盤)「JEMAPS(ジェイイーマップス)」を展示する。85インチの巨大ディスプレーでリアルタイムのデモ映像の投影などを行う。

初出展のネクスティエレクトロニクスは環境に配慮した電動ラジコン草刈り機などを展示する

技術商社のネクスティエレクトロニクス(東京都港区)も初出展。シンガポールのスペクトロニック製水素燃料電池を搭載した電動ラジコン草刈り機などを出展する。水素燃料電池はCO2を排出しない。同社では「小型の水素燃料電池の市場を開拓したい」とする。

また会場の一つ「スタートアップ&ユニバーシティエリア」では、前回と比べほぼ2倍の153のスタートアップや研究機関が参加し、次世代のイノベーションの種となる技術やビジネスモデルを披露する。

さらに、一般来場終了後の時間帯には、出展者同士の交流会であるネットワーキングイベントを開く。親交を深め、新たな共創を作り出してもらう。

一方、海外からは21カ国・地域が出展。今回、総務省の支援を受けてウクライナが初展示する。ウクライナは電子機器が主要な輸出品目の一つであり、多くの情報通信技術(ICT)人材を抱えているという。デジタル関連の企業11社が出展し、製品やサービスを紹介する。日本企業とのビジネスを促し、復興支援につなげていく。


【関連記事】 東芝のニュースをまとめて読める「ジャーナグラム」はこちらへ
【関連記事】 日立が電機業界で勝ち組になったグループ戦略
日刊工業新聞 2023年10月17日

編集部のおすすめ