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新興台頭・SDV市場拡大…自動車メーカーが迫られる新価値創出

モビリティーの未来を描く #1

「次の100年も車はモビリティー社会の主役でいられるのか」―。日本自動車工業会(自工会)の豊田章男会長(トヨタ自動車会長)はこのことが、自動車産業に突きつけられている命題だと指摘する。自動車はCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)と呼ばれる大変革期の真っただ中にある。コロナ禍や半導体不足が落ち着きつつある一方、新興電動車メーカーの台頭やソフトウエアによって価値を定義する車(SDV)の広がりなど、新たな課題が次々に生じている。車メーカー各社は課題に対応し競争を勝ち抜くため、将来に向ける視野を車からモビリティーへと広げ、他業界との連携によって新たな価値を生み出す必要に迫られている。

主要11か国と北欧3か国の合計販売台数とEV/PHV/FCV、HVのシェア

マークラインズによると、欧米日中など世界主要11カ国と北欧3カ国(計14カ国)の電気自動車(EV)の販売台数は2022年から急増し、14カ国の23年1―8月のEVとプラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池車(FCV)の累計販売は、前年同期比32・7%増の706万台と増加傾向が続く。

EVの市場拡大が顕著なのが中国だ。中国ではEVと合わせて、大型ディスプレーを使った車室空間やスマートフォンとの連携機能などで新しい価値を提供するSDVに、ユーザーの関心が集まる。日本メーカーはコロナ禍後に顕在化した、この市場変化に追いつけず、トヨタ自動車、日産自動車ホンダなどが足元の販売を減らしている。

脱炭素社会の実現に向けた環境規制の高まりを背景に、EVとSDVは欧米やアジアといった市場でもさらに広がると想定される。日本車各社もEV投入計画の前倒しやSDV開発体制の強化といった対策を矢継ぎ早に打ち出すなど、電動車とSDVを軸とする車メーカーの競争は待ったなしの状況だ。

他業界と連携、新価値創出

一方、国内メーカーで構成する自工会は、市場や環境規制がEV一辺倒となることに対し慎重な立場だ。カーボンニュートラル(CN、温室効果ガス排出量実質ゼロ)の実現に向けて、ハイブリッド車(HV)やFCV、CN燃料を使う内燃機関など、多様な選択肢を残す必要があるとする「マルチパスウェイ」の立場を取り、各社が水素活用やバイオ燃料、次世代電池の開発に化学、素材などの異業種と連携して取り組む。

特にSDVによる車の新しい価値の創出には、ソフトやサービスの開発を得意とするスタートアップなどとの連携が不可欠になる。自工会が26日から東京・有明の東京ビッグサイトなどで開く「ジャパンモビリティショー2023」も、19年まで続いた「東京モーターショー」を改称し、日本全体でモビリティー社会の未来を考える場をつくろうとしている。

車以外の業種が増えたことで、出展者数は前回の約2・5倍の475社。スタートアップも90社参加する。未来の東京で活躍する多様なモビリティーの姿を見せる目玉展示「東京フューチャーツアー」には177社が集まり、「多くの産業と一緒に未来につながる国民的イベントとして開催する」(田中正実自工会次世代モビリティ領域長)。車からモビリティーへ、東京から日本へと裾野を広げ、自動車の枠にとらわれない新しい製品・技術・サービスが生まれるきっかけをつくる意気込みだ。各社が見せるアイデアから、未来のモビリティー社会の姿が見えてくるはずだ。


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日刊工業新聞 2023年10月17日

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