デジタルツインで街を再現…小田急電鉄が来訪者に情報・価値提供
私鉄各社は交通アクセス改善に努める傍らで、日々の暮らしに必要な機能を集めた魅力ある街づくりで鉄道利用者を確保する“選ばれる沿線”を目指している。小田急電鉄は小田原線のほぼ中間に位置する神奈川県の海老名駅周辺でスマートシティー(次世代環境都市)を意識した街づくりに挑む。データに基づく予測で来訪者に役立つ情報と価値を提供し、地域全体の最適化・活性化に貢献する「次世代AI都市シミュレーター」の実証実験を実施した。
次世代AI都市シミュレーターは東京大学がソフトバンクなどと人工知能(AI)の共同研究を進めるために設立したBeyond(ビヨンド)AI研究推進機構の研究テーマの一つ。2021年4月から23年3月まで、小田急が開発を進める海老名駅周辺エリアを研究対象にAI活用の有効性を検証した。
小田急線海老名駅は開発により乗降客が1日当たり12万人を超えるまでになっている。仮想空間上に海老名駅と周辺エリアを再現し、人流・交通・購買・来訪者の属性などのデータに基づき行動を可視化・予測するデジタルツインによるシミュレーションを行った。
同駅東口の8棟で構成する大規模複合商業施設では、来訪者のスマートフォンに対話アプリケーション「LINE」を通じた各種情報の通知やクーポン発行、さらに年齢や性別、グループか個人なのかといった属性を把握できるAIカメラ搭載のデジタルサイネージ(電子看板)での情報表示などで行動変容を促し、混雑緩和と購買促進の両立を探った。ビーコンをはじめとする各種センサーで行動をモニタリングし、そこに購買データを重ね合わせれば変容のメカニズムが見えてくる。
実際、施設の広場に夏季限定で設置する子ども向けプールの割引クーポンをLINEで通知したところ、「利用者の増加とともに近くの店舗で子ども用の水着が売れていることが分かった」(米山麓小田急電鉄デジタル事業創造部課長スマートシティPJ統括リーダー)と話す。そのほか「映画封切り日の飲食店クーポンの有効性、ペットマルシェの高い集客力などが数値として明らかになった」(同)という。
2年目の後半からは同駅の西側、JR相模線海老名駅との間で開発が進む駅間地区でも実証実験が始動。気象条件も加味した人出予測を店舗に示し、タワーマンションの居住者には生活に密着した買い物情報、オフィスビルの勤務者には飲食店の混雑情報などを提供した。今後は消費を促す行動変容にとどまらず、エネルギーや物流の効率化など環境負荷低減に資する都市づくりへの活用を試みる。