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産学連携の対価、コストから「成果の価値」ベースへ

大学や研究機関が生み出す成果の値決めが課題になっている。産業技術総合研究所は産学連携の対価をコストの積算でなく、成果の価値で評価するよう産業界に働きかける。国立大学では学問への投資を促そうと、さまざま連携形態が考案されている。経済産業省と文部科学省の双方で取り組みが広がる。足並みがそろうと学術界全体に波及する可能性がある。(小寺貴之)

「成果が生み出す価値で共同研究費を決めるべき。自社でやるよりも安いからと受ける仕事は我々の価値が認められていない」と産総研の石村和彦理事長は説明する。従来、国に研究プロジェクトを提案する際はコスト積み上げ方式で予算を策定してきた。産業界との共同研究をコストベースで進めると研究成果を原価で渡すことになる。これでは次の研究への投資が難しい。

そこで価値ベースの研究企画を進めている。ただ企業にとっては研究費の値上げに映る。受け入れられるか懸念されたが、石村理事長は「企業には理解していただけている」と自信をみせる。実際にSOMPOホールディングスと次世代介護モデル確立に向けて年間10億円で6年間の契約を結んだ。介護の未来に必要な投資と認められた。

こうしたアカデミアが生み出す知的資産の将来価値を、研究機関が主体的に値決めする取り組みが広がっている。文科省は幹部自らが大学を巡って啓発する。金沢大学や熊本大学の研究費算定や、東京大学大阪大学が企業と結んだ組織連携スキームなどを図解し、経営陣に教えている。

例えば技術研究組合(CIP)を株式会社に移行する際、大学は金銭を出資せずに株式を取得できる。事業が大きくなり利益が出れば、その一部を大学に還流できる。ソフトバンクは東大との人工知能(AI)研究にCIPを活用し、10年間で最大200億円を拠出する。西山崇志基礎・基盤研究課長は「産業界に近い領域から事例が生まれている。学問への再投資が回り始めている」と説明する。

課題は学術研究だ。天文学のような産業がない領域は、研究者が社会から資金を集められると思っていない。ただ東大は米カブリ財団からの寄付で基金を設立し、年間配当を研究資金に当てている。

テーマは数学と宇宙物理の融合研究だ。公共財としての価値が評価されれば、学術研究であっても不可能ではない。西山課長は「大学全体で取り組むのは簡単ではない。まずは大学内の研究拠点が先導役になってほしい」と期待する。知的資産に値決めし、得られた利益で学問へ再投資する。簡単ではないが実現すれば学術界への貢献は大きい。輪が広がるか注目される。

日刊工業新聞 2022年12月29日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
2023年度の国立大学の運営費交付金は1兆784億円と2億円減る見込みです。補正予算で積んではいますが、5桁目まで数値を精密にコントロールしているので、当初予算の額が上がる気配は感じられません。この状況で、研究成果の価値は社会が決めるものと考えていると買いたたかれる一方です。そもそも税金でやってる研究なんだから無償だとさえ言われます。これでは学問への再投資は起きません。文科省は国が予算を減らせば研究者は新しい資金調達を考える、と考えている相手と折衝しています。大学が稼ぐことへの賛否はありますが、学術を支える資金循環を作る努力はしないといけません。そのためには自ら価値を示すのは第一歩になります。大学はあの手この手で策を打っています。文科省はそれをまとめて図解して配っています。特に学術研究を支える仕組みは難しく、学術研究の成果に値段が付かないから、基金を立てて運用益で研究を支えています。これだと学術研究は運用益を消費するだけで、成果が次の投資の原資を生んでいる訳ではありません。賛否の分かれる10兆円の大学ファンドは20年前の手法です。文科省は財務省には学術研究で稼ぐ困難さを説明して財源確保をお願いしつつ、大学にはなんとか新しい資金循環を考え出してくれとお願いしています。WPIがこのモデルを作る単位としては最適な大きさで、23年度に新しく公募します。「箸の上げ下げまで規定しても、いい提案は集まらない。公募要領なんてくそ食らえの精神の自由な提案を求める」と担当課からは聞こえてきました。

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