山岳トンネル工事での火薬装填を遠隔化、作業員の安全と品質を守る一石二鳥の技術
大林組は慶応義塾大学と共同で、山岳トンネル工事において掘削面(切羽)直下で行う火薬の装填作業を遠隔化・自動化する技術開発にめどを付けた。物体に触れる感覚(力触覚)を伝送する「リアルハプティクス」技術を導入。このほど、遠隔地から直感的な操作で火薬を装填するシステムを構築した。作業員の動きを記録・再生することで、作業の自動化も可能になる。2026年度までの現場適用に加え、自律化も視野に入れる。
新システムは、トンネル工事に使う掘削機「ドリルジャンボ」に火薬の装填機能を持たせた「スレーブ」を取り付けたロボットアームを搭載。火薬を装填する穴や壁に触れた場合だけでなく、装填時の微妙な感覚も力触覚として作業者側の「マスター」に伝える技術を確立した。思い描くのは作業者が切羽の映像や力触覚を活用しながら、安全な場所で違和感なく、高品質な作業をこなす姿だ。
もう一つ磨きをかけるのが、遠隔化で蓄積した作業データを記録・再生する技術だ。マスターとスレーブの操作・動作データを取り込み、繰り返し作業の自動化を目指す。作業を無人化できれば、より安全で効率的な働き方も見えてくる。大林組トンネル技術部の渡辺淳課長は「形状が変わる建設現場で使いこなすには、自動化に加え自律化も重要。そこまでをターゲットにやりたい」と明かす。
併せて、火薬の脚線を結線する技術開発にも重きを置く。結線作業は装填作業と並び、手指や力加減に繊細な感覚が求められる。このため足元では徹底した安全対策の下、手作業での施工に頼っているのが実情だ。ただ支保工の建て込みなど、同じ山岳トンネル工事でも重機を使う作業では遠隔化・自動化が進む。リアルハプティクスの導入で、これら作業の安全性・生産性向上も現実味を増す。
大林組はトンネル掘削作業の自動化・自律化を、建設現場で深刻さを増す「担い手不足の解消」への“解”の一つに位置付ける。熟練作業や危険作業を各種ロボットやシステムで補完・代替し、人手が必要な工程に作業員を配置する体制を整える考えだ。「ロボットやIoT(モノのインターネット)が活躍する“格好いい現場”」(日本建設業連合会)で、若年層の入職を促す効果も引き出す。
リアルハプティクスは物体に触れた際に感じる硬さや柔らかさを伝送し、力触覚を再現する技術。慶大が研究開発を進めており、大林組とは建設機械への適用や左官作業の遠隔化で共同開発の実績がある。火薬の装填・結線作業を遠隔化・自動化する仕組みは3例目の成果で、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が展開する「官民による若手研究者発掘支援事業」で実施した。